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理事 田村 聡 の「講義力をともに高めよう」2 ~ 新連載 ~

第 2 回 『 話力とは何か ① 』

 今回から2回にわたり、「話力とは何か」の項目を深めましょう。まず今回は「話力の三要素の定義」について取り上げます。次回は「話力の基本要素を高める」について考えます。

 「対話と社会生活」においても話力の定義についてふれていますが、あらためて話力とは何かを受講生に伝えます。多くの受講生にとって、「話力」は初めて出会うことばです。それだけに、この項目の講義には時間をとる必要があります。定義づけを丁寧に行うことで、あとの話力理論の展開がスムーズになります。かみくだいていうと「話す、聴くことの全体的な力」が話力の定義です。テキストには「話の効果に与える影響力」という表現もあります。人は面と向かって話し、聴くことによって、相手にさまざまな影響を与えています。(例:感じよく話すことによって、相手が心地よくなる)これがその人の話力ということなのですが、やや難解な言い回しかも知れませんね。

 そして、話力は三つの要素から成り立っていることを伝えます。ここで「話力=心格力×内容力×対応力」の図式はしっかりと板書します。耳慣れないことばは「心格力」ですね。「かつては人間性と定義していました」と補足すると、若干わかりやすくなります。そして、話し手(聴き手)の豊かな人間性からにじみ出てくるものが力となって、相手に影響をあたえることから「心格力」と定義するようになったと講義してみてはいかがでしょうか。人間性がパワーになるということですね。そして、さらにわかりやすくするために、図式の各要素の下に(だれが)(何を)(どのように)と書き加えます。「だれが、何を、どのように話す(聴く)のか」、これがイコール話力です。もうひとつ欠かせないポイントは、この三要素を掛け合わせたものが話力であるということです。つまり相乗効果です。どの要素も高めていく必要があることをことばでおさえると、次の「話力の基本要素を高めるには」につながります。

 各要素について講義する際には、具体例を交えるとわかりやすいでしょう。心格力では、人の心にふれるような温かい話が効果的です。人の優しさ、思いやり、誠実さが感じられるエピソードが誰にでもあるはずです。とりわけ、講師の心が揺さぶられた話ができると説得力が増すでしょう。内容力については、たくさんの材料をインプットすることに加え、それをもとに自分で考え、深め、オリジナルの話に仕上げていくプロセスが必要であることを講義します。そして、アウトプットできるようになった段階で内容が内容力に変化します。単なる受け売りの話にならないようにということですね。そして、対応力で初めて受講生になじみのある「話し方・聴き方」が登場します。話力における技術的な面ですが、単にテクニックだけに走ると話術に陥ってしまうことにもふれておきます。対応力はそうではないことをここでは強調します。対応力の基本である一般性、合理性、伝統性は、キーワードとして「違和感がないように」ということばでまとめられます。極端な例ですが、結婚式のスピーチで別れ話をするのは一般性がないといえます。また「私の趣味は、日本各地の温泉を巡ってみたいです」という表現では、聴き手が「?」となります。主語と述語がつながらずに、ことばがねじれています。論理の法則にかなわず、合理性が失われています。伝統性はなかなか難しい面があります。「郷に入っては郷に従え」ということばがあるように、その集団独自の伝統が存在している場合があります。たとえば役者さんが楽屋に入るとき、たとえ夜であったとしても「おはようございます」と言います。その伝統に従うことが、余分な摩擦を引き起こさないことにもなるでしょう。もっとも、中には「悪しき伝統」もあり、変えた方がよいものもあります。しかし、そこまでふれると対応力から講義がずれてしまいますので、この項目では深入りしない方がよいでしょう。テキストに書かれている表現力、聴解力についても、キーワードとしておさえておきます。各要素の講義においては、身近な具体例が受講生にとっては理解の助けになります。

 さて、話力の三要素への理解を深めたところで、次回は「話力の基本要素を高めるには」をご一緒に考えていきましょう。

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