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理事長ブログ「忘己利他」N14

ビジネスコミュニケーション「仕事がはかどる話し方のコツ」
 ◆よりよく生きるためのツール ~ 究極のコミュニケーション能力を磨く ~

改訂第2版

「13.人を育てる称賛と忠告」

NHK出演

話力総合研究所 理事長
NHK取材

(1)7つほめ、3つ叱れ

 家庭でも、学校でも、ビジネスにおいても「人を育てる」ことは重要な課題です。

 「子どもがゲームばかりしていて、親の話を聴こうともしない。どうすればいいでしょうか?」

 「見込みのある生徒だから、がんばってほしかったのに。叱ったら、部活をやめてしまった。残念で仕方がない。」

 「最近の若い社員とことばが通じない。ちょっと何か言うと、パワハラだと言ってくる。どうすればいいのか?」

 講演、研修で訪れたところで、毎年のようにこのようなお話をお聴きします。それぞれの立場で程度の差はあるものの悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

 人を育てる際によく言われるのは、「3つしかって 5つほめ 7つ教えて 子は育つ」ということわざですね。二宮尊徳は「かわいくば 5つ教えて 3つほめ 2つしかって よき人になせ」と言ったそうです。また、最近では「7つほめ、3つしかれ」とも言われているようです。あるいは「ほめて、しかって、またほめよ」とも言いますね。

 いろいろ言われていますが、要は叱ってばかりでは効果的ではないということです。叱られる立場に立てば、いやなものです。心にグサッと突き刺さります。言い訳したくなります。反発したくなります。こんなことが続くと、そのうち聞き流すようになりかねません。聴かないは、「利かない」効果があがらない。ということです。

 「叱る」注意、忠告、叱責。内容の軽重や状況、相手によりいろいろですが、効果をあげるためには、基盤が必要です。相手との人間関係、信頼関係。相手が好意や尊敬の気持ちをもっているかどうか。たとえ強烈なことを言っても、相手が好意的に、肯定的にとらえてくれるかどうか。どんなに厳しいことを言っても傾かない、倒れない確固とした人間関係の基盤があるかどうかにかかっています。

 特に職場の管理職が部下を注意、忠告して効果をあげたいなら、まずはこの基盤づくりに取り組むことが必要なのです。そして、この基盤づくりに大切なのは「ほめる」ことです。

 「ほめ上手 本当はほめてもらいたい」「ほめられたことばを自分で言ってみる」これも第一生命が毎年公募しているサラリーマン川柳の入選作でしたでしょうか。人は少なからず、「ほめられたい」という気持ちを持っているのではないですか?言いすぎですか?「私は別にほめられたいとは思わない」と言っている自信家でも、おそらく一人二人、尊敬するあの人には「認められたい」という気持ちはあるでしょう。

 この「ほめられたい」「認められたい」という相手の願望に応えることが大切なのです。そうすることにより、相手は「ほめられた」「認められた」「私のことをきちんと評価してくれている」「いつも気にかけてくれている」と思うでしょう。好意を持つでしょう。信頼するでしょう。尊敬の気持ちも沸いてくるでしょう。

 日頃は「ほめる」努力をする。ことばに出さなければ伝わりません。少なくとも1日1回以上。相手の価値を認めることばを相手に伝えてください。注意・忠告の効果をあげるための基盤づくりです。そして、ほめられると「やる気」になります。気持ちが高揚します。「ほめことば」を受けると、俗に「やる気ホルモン」と言われているホルモンの分泌が高まるそうです。職場が生き生きします。やる気に満ちてきます。そして、改善すべきことを見つけたら「叱る」のです。ぜひ、実践なさってください。

「ほめる」と「しかる」

図.「ほめる」と「しかる」

(2)ほめ上手になろう

 「ほめると部下が図に乗るからほめない!」

 「ほめる」ということに対して、このような考えを持っている職場のリーダは少なくないかもしれません。これは誤解です。もちろん受け止め方の問題がないわけではありません。しかし、多くの場合、効果的にほめていない結果だと考えています。

 「ほめる」を「おだてる」「お世辞を言う」「ちやほやする」ことだと思っていれば、確かに「図に乗せてしまう」かもしれません。違いますね。「ほめる」とは「相手の価値を認める」ことです。「ほめる」ことが人を育てることにつながるとお話ししました。

 皆さんは周囲の人をほめていますか?また、周囲からほめられていますか?いろいろな職場でアンケート調査をしてみると、職場のリーダが「ほめている」と答えても、その部下たちは「ほめられていない」と答えるケースは少なくありません。効果が出ていないのですね。

 効果をあげるために考えていただきたいことをお話しします。

 まずは、「あたりまえ」はほめないですね。医師に「病気のことよく知っていますね」歌手に「歌うまいですね」弁護士に「法律に詳しいですね」などとは言わないでしょう。あたりまえをほめると、相手には「ばかにされた」「茶化された」というメッセージが伝わりますよ。

 次に、自分を基準にしてほめていませんか?「あたりまえ」の基準は人それぞれです。私事ですが、若いころはコンピュータのシステムエンジニアとして仕事をしていました。10年ほど経験を積みましたので、キーボードは両手でパチパチ打てます。私のキャリアを知っている知人がそれを見ていて「秋田さん、キーボード両手で打てるんだ!すごいね」とほめてくれました。自分は打てないけど、秋田は打てる。自分基準なのです。ほめてくれたのだと理性ではわかるのですが、気持ちとしては「私にとっては当然のことなのに」という思いがありました。相手の基準にしたがってほめないと、相手に戸惑われて効果が半減するということを理解してください。また、自分基準では、部下をほめられなくなりますよ。なぜか?リーダである皆さんの方が経験を積んでいるのですから、できてあたりまえですね。「仕事のできる上司ほど、部下をほめない」ということがあるとすれば、自分基準だからです。

 ほめるときは相手基準でほめましょう。相手ができていなかったことができるようになったら、ことばにして相手に伝えるのです。

 3つ目はほめことばを知らないと、タイミングよくほめられません。日頃から、ほめことばを仕入れる努力をしてください。皆さんは、自分の良い点をいくつあげられますか?書いてみるといいですね。10ですか?20ですか?30ですか?

 自分すらほめることができなくて、他人をほめられますか?まずは自分をほめることば30以上が目標です。

 他人をほめるとき、良い方法があります。ほめるべき事実を伝えて、ひとこと添えるのです。

 「~、いいね」「~、がんばったね」「~、よくやったね」「~、ありがとう」「~、うまくいったね」「~、さすがだね」「~、助かったよ」「~、うまいね」「~、すごいね」

 いかがですか。これなら、タイミングよくほめられますね。ほめるは、相手の価値を認めることですから、事実をほめてください。「おせじを言う」「おだてる」は事実ではありません。この違いを意識なさってください。

 そして、実際にほめるときは、次の原則を守ってください。

① 事実を具体的にほめる

 「その服似合っていますね」これでもことばに出さないよりは出したほうがいいです。しかし、もう一歩踏み込んでください。どこがどのようによいのかを具体的に伝えると、本心から言ってくれているのだというメッセージが相手に伝わりますよ。

② タイミングよくほめる

 「そういえば、昨年の今頃だったね。君のプレゼンよかったよ」

1年もたってからほめられても実感がわきません。相手の良さ、相手の価値に気づいたらすぐに、タイミングよくほめてください。

③ オーバにならない

 だいぶ前になりましょうか、「ほめ殺し」ということばが流行りました。あまりにもオーバになると、効果的ではありません。「からかわれている」「バカにされた」などという印象を与えては逆効果です。適切な表現を心がけてください。

④ 相手の気づかない点をほめる

 相手がほめてほしいと思っているところは必ずほめるようにします。それに加えて、相手が気づいていない良い点をほめます。気づかせるのです。成長につながります。

⑤ 間接的にほめる

 直接ほめると、お世辞と思われてしまうかもしれません。例えば、相手に伝わるように第三者を介してほめます。自分がいないところでもほめてくれていると思わせると、お世辞と思われないで効果があがります。また、「この文章、添削してくれませんか?」「スマートフォンを購入したいのですが、どんなもの購入したらいいですかね?」などと依頼したり、教えを乞うとよいですね。そのことに長けている、詳しいと思っているというメッセージが相手に伝わり、間接的にほめている(相手の価値を認めている)ことにつながります。

 日頃はほめて育てる。ほめ上手になってください。

(3)ほめられ上手になろう

 日本人はほめ下手、ほめられ下手のようです。相手のことをことばに出してなかなかほめないですね。また、ほめられるとすぐに「いやいやそんなことないですよ」と否定しがちです。せっかくほめているのに否定するとほめにくくなります。

 ほめるというのは好意の裏返しですね。好意を持っていなければ、なかなかほめられるものではありません。知らない人をほめられますか?少々難しいですね。嫌いな人をほめられますか?これは不可能に近いのではありませんか。

 ほめられるということは、好意を持ってくれたということですから、それに応えるよう心がけてください。次の点を意識しましょう。

① 素直に礼を言う

 ほめられたら、「ありがとう」「ありがとうございます」が先ですね。まずは素直に喜んでお礼を言いましょう。「認めてくださった」という喜びの気持ちを表情に表して、明るいことばを発することが大切です。

 「ありがとう」はたいへん良いことばです。「有難う」と書きます。「ありがとう」の反対語は何でしょうか?「あたりまえ」です。その状態に「有る」ことが難しいから、「ありがとう」なのです。よくぞ私のことを認めてくださった。その気持ちをこめて「ありがとう」です。

② やたらに否定しない

 日本人は謙遜を美徳としています。ですから、ほめられるとすぐに反応して、否定してしまいがちです。ほめられて、お礼を言った後であれば、少々の謙遜はほほえましくもあります。人柄を表しますから、悪いことではありません。しかし、度を過ぎないように心がけてください。せっかくほめてくれた人に戸惑いや不快な思いをさせない配慮が大切です。

③ 調子にのらない

 希なことではありますが、なかにはほめられると当然でしょうという表情をしている人もいます。「私を誰だと思っているの。そんなこと当然でしょう」とでも言いたいのでしょうか。有頂天になって、過度に反応することは慎まなければなりません。

 ほめ上手、ほめられ上手をめざしましょう

(4)忠告の必要性 

~ 割られた窓を放置するとやがてすべての窓が割られる ~

 忠告とは、改めさせることを目的とした話です。相手との人間関係、社会関係、目的の軽重などにより、「アドバイス」「注意」「忠告」「しかる」など多少のニュアンスの差はあります。ここでは、それらをすべてまとめて「忠告」ととらえることにします。

 忠告は得意ですか?「忠告するなら私に任せてくれ」という方がいらっしゃるでしょうか? おそらくいないでしょう。できれば忠告したくないのではないでしょうか?なぜですか?人間ですから、「ミスすることもある自分」が忠告するのですね。「お前はどうなんだ!」などと思われたくないという気持ちが働きますよね。

 あるいは、「反発されたらいやだな」「不快な思いをしたくない」「せっかく人間関係うまくいっているのに、ぎくしゃくしたくない」こうした不安感があるかもしれません。

 しかし、放置していたらどうでしょうか?職場が荒れることになりませんか?そこまでいかなくても、職場の雰囲気に問題が生じかねません。

 「割られた窓を放置すると、やがてすべての窓が割られる」と言われています。「割れ窓(破れ窓)の理論」と言うそうです。本来は環境犯罪学の理論です。軽微な犯罪も徹底的に取り締まることで、凶悪犯罪を含めた犯罪を抑止できるという意味だそうです。少々大げさかもしれませんが、職場や家庭でも割れ窓の理論が当てはまるのではないですか。放置していたら、エスカレートしかねないですよ。

 人を育てるためにも、改めるべきことはすぐに改めさせることが大切です。職場や社会がリーダに求めていることですし、リーダの責務です。とはいえ、やみくもに忠告しても効果があがりません。これは知人のIさんから聴いた話です。ある専門学校の講師控室のドアを開けると、2人の同僚講師がおしゃべりをしていました。横のテーブルには荷物を広げたままでした。Iさんはおしゃべりしている2人に声をかけました。「テーブルの荷物片づけてください。他の方が使えないですよ。」おしゃべりをしていた一人がIさんをにらみつけ、「私はあなたの生徒ではありません」といって、荷物を持って出て行きました。Iさんは、この話をして、最後にこう言っていました。「正しいことを言うときほど慎重にしなければいけないですね。」そうですね。目的は改めさせることですから、反発させないように、効果があがるように工夫しなければなりません。忠告の難しいところです。

(5)情熱と冷静の間でしかれ!

 改めさせるには、どのようにしかったらよいのか?悩んでいる方は少なくないですね。特にパワーハラスメントの問題が指摘され、パワハラ防止法の成立を契機として多くの方の意識が高まったように思います。相手を思って叱ったつもりが、知らず知らずに度を越してしまったり、「パワハラだ」と言われてしまっては何にもなりません。適切な基準を持っていないと、あたふたすることになるかもしれません。

 以前、高校や大学のスポーツ指導者を前に講演する機会がありました。その時に、ある高校野球の監督から質問を受けました。「素質があり、将来有望だと思って指導する。見込みがあるから叱るのだが、叱ったらやる気をなくして辞めてしまう。どうしたらいいのでしょうか?」最近は特に難しいですね。昔は子供の時から親や近所の人にあたりまえのように叱られ、ある意味「耐える力」が身についていました。少し前から若者のこの耐性が低いため、ちょっと叱られると大きなショックを受けがちなのでしょう。

 忠告の効果をあげるために、次の点を意識してください。

① 相手の自尊心を守る

 頭ごなしに叱っては、「叱らなければよかった」という結果になりかねません。「正しいことを言うときほど慎重に」でしたね。

 ポイントは二つです。まずは、時と場に気をつけること。月曜の朝いちばん。これから1週間がんばろうというときに叱っては、一日中、あるいは1週間、暗い気持ちになりかねません。また、おおぜいのいるところで叱らないよう気をつけてください。たとえ、おおぜいでなくともライバルがいるところ、同期、部下、後輩のいる場で叱られてはたまりません。忠告する時は別室で、1対1が原則です。

 ふたつ目は、相手の性格、能力、耐力を把握したうえで忠告することが大切です。どこまで踏み込めるかをよく考えてください。踏み込みすぎて、反発を招いたり、やる気をなくさせては意味がありません。どこまで耐えられるか、相手に応じて作戦をたてます。効果があがるように、あらためることができるように工夫なさってください。あせらず、じっくりです。場合によっては、すべて改めさせるのではなく、段階を踏むことも大切です。長期戦で臨んでください。

② 日頃から好意的な関係づくりに努力する

 効果的にしかるには、好意的な関係、信頼関係、尊敬されることが大切だとお話ししました。日頃から好意的な人間関係を築くことが大切です。そのためには、相手の良い点を指摘する「ほめる」でしたね。ことばに出さなければ伝わりませんよ。

③「怒る」と「叱る」の違いを意識する

 実際に叱る時は、「怒る」と「叱る」「注意・忠告」の違いを意識し続けてください。

 「何やってんだ!」と思った瞬間、かっとなって忘れてしまいがちですよ。違いは何でしょうか?「怒る」というのは心の解放です。自分の気持ちをぶつけて、自分がすっきりしたいのです。その時の気分しだいです。「機嫌が良いと怒らないが、機嫌が悪いとすぐ爆発する」などということはないですか。自分本位。利己的と言ってもいいでしょう。

 「忠告」の目的は人を育てることです。愛情をもって、客観的な尺度で、誠実に忠告します。改めさせるべき事実があったら、改めさせるために忠告するのです。相手の成長を願って叱るのです。

 今、感情的になっていないか。相手のために叱っているか。相手の成長を願って叱っているか。常に反省しながら忠告する意識を持ってください。

④ 冷静と情熱のあいだで、勇気をもって本気でしかる

 そのためには、常に冷静でいなければなりません。感情的にならないことです。人間ですからたいへん難しいことですが、感情的になってしまうと相手も感情が先行します。「売りことばに買いことば」不毛な口論になりかねません。ぐっとこらえることです。

 また、「わかってくれるだろうか?」「反発されはしないか?」心配ですね。わかります。とはいえ、叱ると決めたら勇気と本気で叱ってください。必ず本気が伝わります。その情熱が相手に伝わるのです。たとえその時は十分でなくとも、いつかわかってくれるはずです。そう信じて本気で向き合ってください。

⑤ 相手の言い分を最後まで聴く

 頭ごなしに叱らないことです。「何も知らないくせに怒ってきた」「噂話を本気にして怒ってきた」などと思われないように。事実でないこと、噂話を信じて忠告しては、逆効果であるばかりか、その後に禍根を残します。信頼関係が崩れます。まずは、事実関係を確認します。どうするか? 相手の言い分を聴くところから始めます。「この頃、仕事がはかどっていないようだが、どうかしたか?」「例の件、うまくいっていないようだが、何か困っているのか?」などとまずは相手に尋ねます。相手の言い分をすべて吐き出して、事実関係を十分把握することから始めてください。

⑥ 改善策を示す

 頭ごなしに叱られると、それが事実でも反発したくなるものです。反発させないためにも、一緒に改善していこうとする雰囲気を高めてください。改めさせることが目的なのですから。こうしたらどうかとアドバイスする方法がありますね。それから、「今後どうすればいいだろうか?」と問いかけて、答えを見つけさせる方法もあります。

⑦ 励ましながら叱る

 忠告は相手の気持ちを暗くするものです。心にグサッと刺さります。相手に応じて、励ましながら叱るなど工夫が必要です。「君のこと期待しているから言っているんだ」「厳しいことだけれど、がんばってくれ。頼りにしているぞ。」など常に相手の自尊心に働きかけることが効果をあげるためにたいへん重要です。ただし、真実でなければなりません。本心で言っているのかどうか、相手は敏感に感じ取ります。

 ぜひ、愛情と情熱を傾けて、「育てる」気持ちで効果的な忠告をなさってください。

(6)効果的な忠告のために 

~ 逆効果の落とし穴に気をつけよう ~

 人を育てるための称賛と忠告。「7つほめて3つしかれ」でしたね。まずは忠告の効果をあげるための基盤作りから始めます。好意的な関係。信頼関係。できれば尊敬の気持ちを持ってもらえるように。そのために、日頃は意識してほめるのでしたね。事実をほめるのですよ。そして、改善点について忠告します。「正しいことを言うときこそ慎重に」そして情熱と冷静の間で叱るのでした。

 このように用意周到に気を配って忠告しても、ちょっとしたひとことでつまずいたら、それまでの努力は台無しです。忠告するときに、ついついしてしまいがちな落とし穴をあげておきます。最後まで気を抜かず、以下の落とし穴に気をつけてください。

① 比較しない

 「同期のA君は、あんなに優秀なのに。。。君は。。。」「後輩のMさんはがんばっているぞ。抜かされるぞ!」ついつい口に出していませんか?ライバルと比較される。同期と比較される。同期ならまだしも、後輩まで登場しては忠告を受ける側はたまりません。上司の立場では、言いたくなることもあるでしょう。わかります。しかし、ぐっとこらえてください。言ったからといって、プラスには働きません。マイナスになるだけです。

② 追加忠告しない

 「そういえばこの間もこんなことがあったな。」「ついでに言っとくが、君はもっと説明力もつけなければだめだぞ」言いたくなる気持ちはわかりますが、今忠告すべき事柄がぼやけてしまいます。「一時に一事の原則」を守ることが大切です。忠告すべき事柄に集中してください。

③ すりかえない

 「こんなことしているから、後輩に先を越されるんだ」「のろのろ仕事しているから、もてないんだ」まったく関係ないとは言えないかもしれませんが、目的は改めさせることです。目的外のことがらを持ち出さないように気をつけてください。

④ 追いつめない、失望させない

 どこまで踏み込めるかを常に考えて忠告してください。「そこまで言われるのでしたら、やめます」「この仕事おります」などと言わせてしまっては、忠告しないほうがよかったということになりかねません。相手に失望感を与えないよう、「はげましながら叱る」のでしたね。

⑤ 忠告後に気をつける

 たとえどんなに人間関係がうまくいっていても、忠告直後というのは嫌なものです。特に叱られた側は、気持ちが沈んでいるでしょう。少し、ぎくしゃくするかもしれません。ですから、まずは自らこだわりを持たず声かけをする努力をなさってください。まずは、あいさつを心がけるとよいでしょう。翌日、顔を合わせたら、「お~、おはよう。」だけでも、相手にとって少しは気持ちが和らぐことになるでしょう。

 そして、フォローを忘れない。「厳しいこと言ったが、期待しているからな。がんばってくれ!」など、相手の気持ちを和らげる気配りが大切です。

 忠告した結果、改善がみられるか見守ることも忘れないでください。すぐに結果が表れないことも多いです。しかし、相手が真摯に努力していれば、必ず違いが表れるはずです。それを見逃さず、ことばに出す。「称賛」を忘れないでください。ほめて、しかって、またほめよです。この行為が次につながります。一方、しばらく見守っても結果が表れないようなら、毅然と再忠告することも忘れないでください。

(7)しかられたらチャンスと思え

 叱られたくないですね。気持ちが沈みます。心にグサッと突き刺さります。ムカッとすることもあるかもしれません。辛いですね。わかります。しかし、言われたことが事実であるなら、耐えてください。相手が自身の感情を爆発させているのではないということがわかったら。自分の将来のために言ってくれているのだと少しでも感じることができるのであれば。受け止めてください。

 忠告する側もたいへんなのです。わかってくれるだろうか。反発せずに受け止めてくれるだろうか。改めてくれるだろうか。ドキドキなのです。冷静に考えてみてください。嫌いな人に、どうでもいい人に忠告しようと思いますか。怒ることはあっても、感情を爆発させることはあっても、忠告しようとはしないでしょう。期待しているから叱るのですよ。少なくとも、嫌われていないから叱られるのですよ。

 叱られたらチャンスです。改善のチャンス。飛躍のチャンスです。ぜひ、そう思って、このチャンスを生かしてください。忠告を受ける際、次の点に気をつけるとよいでしょう。

① 感謝の気持ちを持つ

 皆さんは、自分のことを思って本気で忠告してくれる人を何人お持ちですか?職場での経験年数を積むほど、先輩、上司ですら忠告してくれなくなるのではありませんか。立場があがればあがるほど、自分のことを思って厳しいことを言ってくれる人はいなくなるのではないでしょうか? 忠告してくれる人は、自分を成長させるための貴重な存在なのです。ですから、感謝の気持ちを忘れないでください。しかられて、「ありがとう」の精神です。

 話力の勉強を始めた頃です。先輩がベテランのインストラクターから叱られていました。「今の講義で受講生が聴いてくれると思いますか。退屈してしまいますよ。準備が足りない。受講生に対する意識が足りない。あと100回準備して臨みなさい。」などと言われているのです。驚きでした。あれほど話せる先輩が、なぜあんなに厳しいことを言われないといけないのか?しかし、その先輩は「はい。わかりました。がんばります。ありがとうございました。」と言っていました。うつむきながら、厳しいことばに耐え、「ありがとうございました」です。その時は理解できませんでした。それが、しばらく経験を積むとわかってきました。自分のことを思って厳しいことを言ってくれて「ありがとう」なのだと。実績をあげると、だんだん言われなくなります。自分で気づき、磨いていくほかありません。そうなってくると、駆け出しの頃、先輩から厳しいことを言われた。懐かしく思い出されます。

② 素直にわびる

 指摘されたら、まずは詫びのことばが先です。たとえ事実と異なることがあっても、まずは相手に話を聴いてもらうためにもわびることばを発したほうが効果的です。「申しわけありませんでした。」「すみませんでした。」「たいへん失礼しました。」そのうえで、必要なら誤解を解くようにします。

③ やたらと抗弁しない

 抗弁は不毛です。抗弁したり、言い訳していると成長はありません。厳しいことを受けとめて、日々改善しようと努力している人と、抗弁・言い訳で済ませてしまっている人。5年後、10年後の違いは大きいです。「こんな自分に誰がした!?」もちろん、「自分がした!」のです。

 特に「3D」に気をつけましょう。「だって~」「でも~」「どうせ私なんか~」 事実をしっかり受け止める耐力をつけましょう。そして、コツコツ改善努力です。

④ 責任回避しない

 何か事件が起きると、当事者が「部下が~」「秘書が~」「妻が~」などと言っている報道を見聞きします。見苦しいですね。自らの責任を正面から受けとめましょう。

⑤ 合理化しない

 もっともらしく理由づけしない。正当化しないということです。だいぶ前の話ですが、日本の外交官が奥さんに暴力をふるってカナダで逮捕されたという報道がありました。その外交官はこともあろうか、奥さんに暴力をふるったことを「日本の文化の問題だ」と嘯いたとのことでした。みっともないですね。

⑥ 強がりを言わない

 「そんなこと言われるなら、私は降りますよ」「なにも好き好んでしているわけではないですよ」嫌な感じですね。相手に向かい、真摯な気持ちで、しっかり受け止めましょう。

 忠告の受け方ひとつで相手との人間関係も変わってきます。忠告を受けとめることができれば、相手は「わかってくれた」好感を持つでしょう。忠告を受け入れて改善し、結果が出れば、「あの人のおかげで今がある」相手に対する気持ちが変わってくるでしょう。良好な人間関係を継続するためにも、指摘されたことが事実であるなら誠実に受け止め、改善していくよう努力なさってください。

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