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理事長ブログ「忘己利他」N23

ビジネスコミュニケーション「仕事がはかどる話し方のコツ」
 ◆よりよく生きるためのツール ~ 究極のコミュニケーション能力を磨く ~

改訂第2版 

話力総合研究所 理事長 

話力総合研究所 理事長

「22.玉石、真贋を見分ける目を持て 耳を持て 

 世の中にはいろいろな情報が氾濫しています。インターネットを用いて、ちょっと検索すれば、知りたいことのほとんどを得ることができます。便利な世の中です。ただし、気をつけなければなりません。こうして容易に得られる情報は玉石混交です。正しい内容、適切なことがらを見分けなければなりません。

 話し方、聴き方、コミュニケーションの分野でも同様です。適切でない内容を真に受けてしまうと、せっかくの努力も効果的でなくなります。

 自分の経験をおおぜいの前で紹介するような講演活動を始めたのちに、話力講座に参加される方が結構いらっしゃいます。アナウンサー、コメンテータや、引退後のアスリートも時々参加されます。こうした皆さんが異口同音におっしゃいます。「講演活動をしていて、自分の底の浅さに気づき、怖くなった。自分の経験を伝えるには、それなりの訓練を積む必要がある。」このことに気づけた方々はすばらしい。しかし気づけない人も大勢います。いろいろな書物に書かれていることをうっすらと突っついて話しているだけでは、話に深みや味わいが出ません。

 昔、勤めていた頃。ことばづかいについて、部下に注意しました。『「おっしゃられる」というのは二重敬語で誤りだ。注意したほうが良い。』そうしたところ、部下が反論してきました。「そんなことありません。私は勉強しています。本には、おっしゃられると書いてあったし、アナウンサーも使っているではないですか。」 誤ったことが書かれている本も出版されていますし、アナウンサーのことばづかいも怪しいことがあります。そのことに気づかないと、勉強しているのなら余計にもったいないですね。

 私たちは本物と偽物を見分ける目や耳を養わなければなりません。怪しげな話を信じてはいけません。参考までに、いくつかの例を示しましょう。

(1)ことばの乱れを感じない おかしな考え

 文化庁の「国語に関する世論調査」によれば、ことばが乱れていると感じる人は1999年の85.8%に対して、2019年には66.1%に減少したそうです。そして、まったく乱れていないと感じる人が30.2%でした。乱れていないと感じる理由は、「ことばは時代とともに変わるもの」との回答が最も多く、39%だったのです。これはたいへんなことです。確かにことばは時代とともに変化しますが、これは時代の大きなうねりとともに変わるのです。個人が変化を肯定してよいものではありません。そんなことをしたら、誰もことばが通じなくなるでしょう。そうでなくても、感染症対策で人と接したり、話したりする機会が減りました。   

 旧約聖書の創世記中に登場する巨大な搭、バベルの塔のくだりと重なります。「人間が天にも届く巨大な搭の建設をはじめ、神の怒りに触れた。搭は壊され、人々はことばを通じなくされた。」といった内容だったかと記憶しています。コミュニケーション能力の退化が心配です。私は危機感を持っています。社会が成り立たなくなってしまいます。

(2)フラットな社会の怪しいコミュニケーション

 現代は縦社会というと上下関係ととらえ、嫌悪したり、否定的な反応をする人が少なからずいます。そして、フラットな社会のコミュニケーションを求めます。俗にいう「ため口」ですね。しかし、これは大いなる誤解です。人間は平等とは言え、社会性を持った動物です。一人では生きにくいのです。社会でお互いを尊重し、かかわって生きています。よりよく生きるためには、相手との社会的、状況的差異を埋めて関わることが大切です。ことばづかいはそのために人間が生み出した道具なのです。これを使わずに生きていくと、たとえ本人が気づいているかいないか、意識的に行っているかいないかに関わらず、マイナスの影響を受けることになるでしょう。

 例えば、本人のいないところで他人が何と言っているか?プラスの評価はしないでしょう。あるいは、何らかのグループに参加した時に必ず周りともめたり、ぎくしゃくさせていませんか。周囲は、ことばに出さなくても、少なくとも感じ悪いと思っているでしょう。

(3)おかしな?あがり対策

 話し方の講師を見分ける、もっとも簡単な方法があります。少々乱暴ではありますが、あがり対策について質問してみるとよいのです。「あがらない方法はありますか?どうすればあがらなくなりますか?」講師の答えが「聴衆をかぼちゃや、やかんだと思いなさい。」であれば、その講師の話は聴かないほうが良いですね。コミュニケーションについて、まったくわかっていません。話の効果をあげるには、聴き手に対応して話すのでしたね。聴衆をカボチャや、やかんに見立てたら、聴衆の様子がわかりません。そのうえ、その講師は面白おかしく語っているだけです。実践していないでしょう。人の顔がカボチャや、やかんだったら怖くて話せません。

 また、「私はあがらない。」という講師も要注意です。人はあがるのが普通です。大事な話、重要な相手だと思うからあがるのです。まったくあがらないということは、問題意識を持っていないのか、感じないのかです。

 「あがるのが普通です。誰でもあがります。私もあがります。あがっても効果的な話ができるよう努力しましょう。」と答える講師の話を聴いてください。

(4)人を動かす怪しい話術

 説得についてお話しした時にお話ししていますが、米国流の交渉術、説得術には、次のようなものがあるようです。

・even a penny technique

 日本的に言えば、10円でいいから募金して?と言えば、100円くらいは募金してくれるということです。まあ、「ハードルを下げる」ということではありますが、どのような印象を持ちますか?

 次はどうでしょうか?

・foot in the door technique

 「署名してください」と言って、署名してくれた人には、その後に「募金もお願いします」と言えば、募金せざるを得なくなるというのです。

 それから、

・door in the face technique

 これは、先ほどの「even a penny technique」の逆ですね。交渉のハードルをわざとあげる方法です。1000円募金してと言って、相手が難色を示したら、無理なら100円でもいいと言うと、なんとなくハードルが下がった気になって、募金してしまうということでしょうか。確かに米国の外交交渉では、この方法が使われているように思うことがありますね。

・low ball technique

 「90円募金して」と言って、募金してくれたら、「あと10円募金してくれると施設も作れます。」などと、きりの良いところまで理由をつけて引き上げます。

 いかがですか?何か感じませんか?「だまされた!」

 そうなのです。米国ではゲーム感覚でよいのかもしれませんが、日本の文化にはなじみません。違和感があります。巧みな話術、うそ、ごまかしがあると、たとえその時はうまくいったとしても長期的には「だまされた」などと相手に思わせ、破たんすることになるのです。「ハウツー」のみが突出するような方法は要注意です。人間関係と話の目的、効果を視野に入れ、適切な方法を選択すべきなのです。

(5)失礼な?「会話をはずませる」方法

 あるテレビ番組だったでしょうか。「会話をはずませる方法」について紹介していました。こうしたテレビ番組で紹介するノウハウは要注意です。批判を恐れずに申せば、視聴者に受けの良い、おもしろく、おかしい内容を紹介する傾向にあるようです。

 はたして、会話をはずませる方法は、「相手の表情について話す」!?のだそうです。みんな、相手の表情について話したらおかしいですね。また、人間関係により相手の表情について話すのは失礼な場合もあります。ノウハウ、方法論には限界があります。応用がききません。賢明な多くの皆さんは、おもしろおかしく見ているだけでしょう。それでよいのです。こういう話を真に受けたらたいへんです。

(6)笑顔の接客 「歯を見せろ」???

 一時期はやった接遇マナーのカリスマ講師。「笑顔で接客しなさい」確かに笑顔で接客すべきでしょう。しかし、その後がいけません。「歯を見せなさい!」「歯を見せなさい!」

 時と場合によりますが、いつでも歯を見せてよいわけではありません。

(7)おじぎのしかた

 おじぎをするときに、あいさつことばをどのタイミングで発するかは、いくつかの作法があるようです。ひとつは、あいさつことばを言ってからおじぎをする方法です。「おはようございます」といってから頭を下げます。「語先後礼」と言います。もうひとつは、おじぎとあいさつことばを同時にする方法です。「おはようございます」と言いながら頭を下げるのです。「同時礼」と言います。それからもうひとつ、場合によっては、先にお辞儀をして、後からあいさつことばを発することもあるかもしれません。

 私どもは、原則、同時礼をお勧めしています。語先後礼を勧める団体もあります。そして、同時礼について、「床にお辞儀をしてどうする!?」などと指摘する場合があるようです。

 別に床にお辞儀するわけではないですから、少々感情的な解説ですね。私どもが同時礼をお勧めするのには、きちんとした理由があります。「態度は視覚に訴える言語」ですね。ことばを介して伝わる内容を理解するには相応の時間がかかります。一方、目を介して伝わる映像は、ことばよりも早く印象に残ります。ですから、あいさつことばが先で、おじぎが後になりますと、相手がことばを聴いたときに、一瞬かもしれませんが「頭を下げないのか!?」という印象を残します。こうしたマイナスの印象は、たとえ一瞬たりとも、与えなくて済むなら与えないほうが賢明です。したがって、原則は同時礼の方が無難でしょう。

 そして、状況に応じて、対応しましょう。相手がこちらを見ていないようであれば、語先後礼が有効です。あいさつことばで声をかけ、こちらを振り向いたところで、おじぎをします。また、声が聞こえないくらい離れているところで、相手がこちらを見ていれば、おじぎが先で、近づいてからことばを発しますね。要は合理的な考え方に基づいて、柔軟に対応することです。

 いかがですか。世間では、いろいろ怪しい話がまことしやかに語られています。まだまだ、いろいろあります。その方法で話の目的を達成することができるか、効果があがるかという問題意識をもって、適切な判断をなさってください。ノウハウにすぐ飛びつかないようにしましょう。

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