ブログ

理事長ブログ「忘己利他」N3

ビジネスコミュニケーション「仕事がはかどる話し方のコツ」
 ◆よりよく生きるためのツール ~ 究極のコミュニケーション能力を磨く ~

改訂第2版「2.話力を磨け」

話力総合研究所
理事長

(1)コミュニケーション力を高める基本は「話力」

 他人と話していると、相手の話し方が気になります。なんとなく事務的で冷たく感じる話。あっち行ったりこっちに来たり、ごちゃごちゃして、わからない話。ことばづかいが適切でなく、ぶっきらぼうで不快に感じる話。しゃくし定規に丁寧すぎて親しみを感じない話。いろいろです。人の話は評価できるのです。ですから、「君の話、何とかならないか?」などと言いたくなりますよね。これを言ってしまったら、言ってしまったで、たいへんですよ。「では、どうすればいいですか?」などと切り返されて、「はてっ!?」と困る。「そんなこと自分で考えろ!」と突き放しますか? それは無責任ですよね。おそらく皆さんは、これまでの経験からこうしたほうが良いとアドバイスなさるでしょう。しかし、厳しいことを申しますが、自己流でアドバイスすると、アドバイスを受けたほうも気の毒ですよ。

 一方、自分の話し方、聴き方は適切ですか? 相手の話し方や聴き方のまずさはわかっても、自分のことには気づかないようです。特に、話に慣れている方、おおぜいの前でも滔々と話せる方は、どちらかというと自身の話し方、聴き方の問題点に気づいてないことが多いです。余計なことを話してしまう。長々と話してしまう。周囲から「短く!」と言われているにもかかわらず、話しだすと止まらない。「校長のちょっとひとこと30分」などという川柳があるくらいです。自身の話し方、聴き方も見直す必要がありますね。

 話し方、聴き方を適切に磨いていくためには、話すこと、聴くことが一体どのような要素から成り立っているかをしっかり把握することが大切です。これまで、「話し方」「聴き方」では足りないとお話してきました。私たちがめざすのは、話の目的を達成し、「話の効果」をあげることでした。この話の効果に対する影響力のことを「話力(わりょく)」と言います。話力は3つの基本要素から構成されていると考えています。「心格力」「内容力」「対応力」です。同じような話をしても人によって効果に違いが生じます。これは「心格力」によるところが大きいです。話す人の影響力と考えればよいでしょう。また、話すべき内容を持っていなければ話せません。何を話すかに大きくかかわるのが「内容力」です。話すべき内容を収集し、考え、整理する力です。そして、相手に対応して話す、聴くための対応力です。どのように話すか、聴くかということですね。「話し方」「聴き方」は、この対応力の一要素にすぎないのです。

 ところで、「話力」は「表現力」と「聴解力」をあわせたものでもあります。この場合、表現力は、心格力、内容力を通して話し方の面から見た話力のことです。聴解力は、心格力、内容力を通して、聴き方の面から見た話力のことを言います。

 そして、話力はこの3つの基本要素の相乗です。「心格力」「内容力」「対応力」のどれが欠けても、話力は小さくなってしまいます。どんなに人柄(心格力)がよくても、話す内容(内容力)をもっていなければ話せません。話し方(対応力)がまずければ、相手に伝わりません。どんなに良い内容を持っていても、それを話すにふさわしい人が話さなければ、「何を偉そうに」「何を生意気な」などと思われてしまうかもしれません。話の効果にとってはマイナスです。話し方がまずければ、伝わりません。どんなに話し方が上手でも、人柄に問題があれば、「あいつは口がうまいから気をつけろ」などと警戒されかねません。話すべき内容がなければ、「あいつは口ばかりだ」などと軽く扱われるかもしれません。聴く時も同様です。人柄に問題があると、他人の話を聴かない、聴けない傾向にありますね。また、相手が警戒して十分に話してくれないかもしれません。予備知識がなければ理解できません。聴き方がまずいと、話す意欲をなくさせるかもしれません。聴く効果に対してマイナスです。このように、話力を高めるためには、話力の3つの基本要素をそれぞれバランスよく磨いていくことが必要です。

 話力を磨き、高め、日常生活や仕事に生かしましょう。

話力とは?

話力とは?

 

 

 

 

 

 

(2)「話は人なり」 心格力とは?

 私は、コミュニケーションに関する研修や講演で、話力を磨くことの大切さを訴えてきました。そして、スピーチ指導などを通じて多くの人の話を聴いてきました。時には同じような内容の話を聴くことがあります。しかし、内容が同じでも、話す人によって聴き手が受ける印象は違います。話しているときのことばからは、単にそのことばが持っている意味だけでなく、話し手の心の温度が伝わってきます。話し手の熱意を感じます。同じことばを聴いても、話し手によって温かく感じることも、冷たく感じることもありますね。また、話し手の心の湿度も伝わります。悲しみや喜びがことばとともに伝わってきます。話を聴いていると話の重さや深さや広さを感じます。明るさや暗さ、親疎の差を感じることもありますね。時には、思わず後ずさりしたくなるような圧力を感じることも、たったひとことがグサッと心に突き刺さることもあるかもしれません。「刃物は肉を切り、ことばは心を切る」のです。このような要素がひとつになって、話が伝わってくるのです。聴き手が感じる「話の味」は話し手自身の味、すなわち「話の味は人の味」なのです。どんなに話し方を磨いても、すべてではないにしろ、自分自身がさらけ出されるのです。聴き手に話し手自身の人柄が伝わります。つまり、話はその人自身を表します。「話は人なり」なのです。

 あるデパートのお得意様ラウンジでのことです。入口に満席の看板が出ていました。看板に背中を向けラウンジ内の様子を見ている男性係員に背中越しに声をかけました。「満席ですね。」「満席です。」こちらに振り向くこともなく、ひとこと返事がありました。ただ「満席です」という短いことばですが、たいへん不快に感じました。ことばは発しているけれど、無視されたような気になりました。相手に配慮する気持ちにかけているように感じました。

 他方、ある証券会社の窓口で書類の記載を求められた時のことです。担当の女性は、筆記具の入った素敵なペンケースを差し出しました。私は、「これ気に入った。もらえないかな?」と軽口をはたきました。すぐに、「差し上げられるといいのですけれど~。あはっ。」 断られたのですが、たいへん心地の良い、あたたかいことばでした。

 心格力とは、その人のあたたかさや優しさ、思いやり、誠実さやまじめさなど、よりよい人間性、豊かな人間性の基礎となる力です。また、自身の良い人柄を外部に発信する力だと考えています。普段はどうもとっつきにくいなと思っていたけれど、一緒に活動してみて、いい人だということがわかった。皆さんの周囲にいませんか?こういう人は、外部へ自分の良さを発信する力が不足しているのです。心格力を高める必要がありますね。

 話をよくしようと思ったら、単に話し方を磨くだけでは足りないのです。厳しいことですが、自分自身を磨いていかない限り、本当の意味で話はよくならないのです。「話の味は人の味」「話は人なり」です。話力を高めるために、心格力を磨く努力を続けましょう。

(3)「中身がなければ話せない!聴けない!」 内容力とは?

 どんなに話し方が上手でも、おおぜいの前で話すのに慣れていたとしても、話すべき内容をもっていなければ話せません。どんなに人柄がよくても、内容が浅かったり、広がりがなければ、話を聴いてもらえないでしょう。また、相手の話を聴く場合も、予備知識としての内容を持っていないと、なかなか理解できないですね。

 ある会合に参加したことが縁で、その団体の理事長Kさんから学習番組への出演を頼まれました。シニア世代向けにパソコンの使い方を教えるのです。インターネット経由で配信される番組でした。私は、「パソコンの専門家ではないので、どなたか専門家にお願いしては?」とお断りするつもりでした。すると、Kさんは、「専門家でないほうが良いのです。使えない人の気持ちがわかるでしょう。それに話し方の先生だから、できるでしょ。」たいへん困りました。しかし、私は「できるでしょ。」ということばに弱いのです。「できません。」と言えません。話し方を教えていても、自分が経験したことがないこと、よく知らないことは話せません。十分に知識がなければ効果的な話はできません。1か月ほど一生懸命勉強して撮影に臨みました。おかげさまで、視聴されたおおぜいのシニアの方から高い評価をいただきました。今思えば、断らずに勉強してよかったと思っています。自分が話せる内容を広げることができたのですから。

 内容力とは、単なる内容、知識、情報のことではありません。自分が身につけるべき話の材料を感知する能力。それを収集する能力。収集した内容を整理する能力。身につけた内容を基にそれを深めたり、広めたりする、つまり想像する力。自分の考えをまとめる力。内容を話として構成する力。状況に応じてその内容が必要か否かを判断する力。内容を選択する力など。これらの総合が内容力です。

 先に心格力の話をしました。「話は人なり」です。話にはすべてではないでしょうが、自身の人柄がさらけ出されます。聴き手はそれを感じます。しかし、内容の伴わない表面的な人柄では、問題も多いです。顔を合わせているだけの時は、いい人だと思った。けれど、一緒に仕事をしてみたら、何事も人に甘えて頼りにならない。周囲にこういう人いませんか?自分の能力のなさをカバーするため、「いい人」を演じているだけなのかもしれません。

 一方で、単に内容力があればよいというものでもありません。人間味を感じない内容は人工知能(AI)とかわりません。内容力は自身の心格力と結びついた知的・情的な面を併せ持ったものと理解してください。話の効果をあげるため、内容力を磨きましょう。

(4)効果的に話す、聴くための「話し方、聴き方」 対応力とは?

 どんなに人柄が良くても、どんなに良い内容を持っていても、相手に伝わらなくては話になりません。この場合、どれだけ相手に応じて話せるかが鍵です。相手が子供なら子供にわかるように。相手が専門家でなければ、できるだけ専門用語を使わずに平易なことばで。親しい仲なら親しげに。初対面ならことばづかいに気をつけて話しますね。

 相手の知識や興味、理解力、意見や立場に応じて話すことが大切です。また、自分の立場や役割も忘れてはなりません。話の目的や話をする相手、話す場などを考えて、それに対応する能力が対応力です。それぞれの場面で、より効果的な話し方を選択し、実践できる能力が対応力です。

 どんなに興味深い内容を持っていても、自分の思うままに話していては、聴き手にとっては「支離滅裂」に感じるかもしれません。「効果的に話すには、聴き手の心の法則に従って話せ」と言われます。聴き手を意識して、聴き手が聴きやすく、わかりやすいように話を組み立てることが大切です。専門家が難しい話をしても一般の人には理解できないかもしれません。この場合、難しい内容をかみ砕いて話す必要があります。一般の人が理解できるように専門用語などをわかりやすく解説する必要がありますね。相手に応じて話さなければ伝わりません。相手が誰なのかを考え、効果的に話すための作戦を立てて、実践できる能力「対応力」を磨くことが大切です。

 対応力を発揮するのは、話を準備する時だけではありません。話している間も、聴き手の様子を注意深く観察し、聴き手に対応していくことが大切です。聴き手が話に飽きてきたようであれば、それに対応し、聴き手の気分を変える必要があるかもしれません。聴き手が、首をかしげているようなら、何かわからないことがあるのかもしれません。質問したり、補足説明が必要になりますね。

 また、自分が聴く側の立場の時も「聴き方」としての対応力が求められます。効果的に聴くためには、相手が話しやすいように相手に対応して聴きます。態度、表情に気をつけて感じよく。相手のことば、語調、表情、しぐさから真意(本音)を考えながら。あいづちをうつなど、熱心に聴いているというメッセージを相手に伝えながら聴くのです。

 対応力を磨き、より効果的に話し、効果的に聴く話力を高めましょう。

(5)人間関係が話の効果を左右する

 話をするからには、多くの場合、話す目的があります。目的を達成してこそ、一生懸命話した甲斐があった。これを「話の効果があがった」というのだとお話ししました。話は「上手に話す」だけでは足りないのです。「話の効果があがる」ように話さなければ、独り言と変わらないのです。そこで、「話の効果を高めるには?」と問うと、一般には次のような答えが返ってくるでしょう。「話し方を磨く」「説明力をつける」「伝える力をつける」などですね。

 もちろん、これらの答えは誤りではありません。必要な要素です。しかし、皆さんは、もっと答えをご存知ですね。話の効果を高めるためには、「話力を磨く」ことです。「話力」を磨くには、話力の基本要素をバランスよく磨いていく努力が必要なのです。基本要素はおわかりですね。豊かな人間性の基礎となる「心格力」。話せる内容を広げ、深める「内容力」。そして、その場、その時、その人に対応した話し方、聴き方ができる「対応力」です。これら話力の基本要素を磨いていけば、より効果があがる話ができるようになります。必ずなります。努力を継続していると、ある時期に「以前よりうまく話せるようになったな。」と気づくでしょう。なるほど、意識的にこつこつ話力を磨く努力をしていれば効果があがるのだとわかります。それがわかると、さらに努力をする意欲が出ます。話力を磨く努力をする。効果を実感する。さらに努力する。私はこれを「話力磨きのスパイラル(螺旋階段)」と言っています。ぜひ、この話力磨きのスパイラルを駆け上がってください。

 そして、磨いた話力を生かすためにも、もうひとつ大切な要素があります。相手との人間関係。周囲との人間関係です。人間関係の良し悪しが話の効果に影響を与えます。同じように話しても人間関係によって効果が違ってきますね。良い人間関係を築いていれば、「ちょっと手伝って」と言えば、たいていのことは協力してもらえるでしょう。しかしそうでない場合は、些細なことでも「何ですか?」「今忙しいです」「上を通してください」などと言われかねません。

 また、話の効果があがると相手に対してどのような感情を持ちますか?「一生懸命話したらわかってくれた」「協力してもらえるか心配だったが、話してみたら快く応じてくれた」こういう時、相手に対してどう思いますか?少なくとも「不愉快」にはならないでしょう。多くの場合、「いい人だ」「いいところあるじゃないか」と思うのではありませんか。話の効果が上がれば、相手に対するプラスの心的な変化が生じ、人間関係が徐々に好転していくのです。好意的な人間関係を築く努力。話の効果があがる。人間関係がよりよくなる。この場合も「好意的な人間関係づくりのスパイラル」を登ってください。

 さらに、心温まるひとことが人間関係をプラスに変えます。一方で、不用意なひとことがせっかく良好な人間関係に水を差します。また、人間関係の良し悪しが話し方、聴き方を変えます。好意的な関係にある人に話すときと、そうでない人に話すときでは、同じように話せないでしょう。そのことは相手にも伝わります。

 人間関係と話力、話の効果との関係を意識し、話力を磨き、周囲と良好な人間関係を築く努力を続けてください。

話力と人間関係

話力を磨け

 

 

 

 

 

(6)「話は人なり」自身を磨く! 「心格力を高める」には?

 「究極のコミュニケーション能力」を磨く。すなわち、「話力」を磨く。「話力」は3つの力から成り立っているとお話ししました。「心格力」「内容力」「対応力」です。これらをバランスよく鍛えていくことが、コミュニケーション能力向上につながるのです。そこで、まずは「心格力」を高めるにはどうしたらよいか?です。

 しかし、これはなんともお話ししにくいです!その人の豊かな人間性の基礎となっている力、良い人柄を外部へ発信する力が心格力でしたね。「心格力を高めるには」こうしたらいいなどと軽々しく、偉そうにお話しできるものではありません。お話ししたとしても「お前はどうなんだ」と言われかねないですね。

 しかし、「心格力」を避けて、話力を語るわけにいきません。批判を恐れずにお話しします。心格力を磨く努力目標です。参考になさってくだされば幸いです。

① 話力の原則を実践する

 まずは、これまでお話しした「話力」を磨くための原則を理解し、意識的に行動していくことです。そして、これからお話しする原則についても、ひとつひとつ実践しようとする努力をなさってください。「そんなこと知っている。」「あたりまえだ。」「当然だ。」「くだらない。」「そんな細かいことどうでもいい。」そう思われるかもしれません。知っていることが実践できているとは限りません。あたりまえのことを実践することすら難しいです。くだらないこと、細かいことを実践できなくて、本質的なこと、重要なことの効果をあげられるでしょうか?力を発揮できるでしょうか?

 実践しようと意識し、努力し、繰り返す。それによって、少しずつ自分自身が変わっていく。形を変えていくことにより、実体が変わっていきます。実体が変わることで気持ち、心が変わります。形と心は深く結びついています。形が心を整えるのです。このことは、古くから続く日本の文化を眺めれば明らかです。茶道でも、華道でも。武道ですら形を整え、心を磨くのではないですか?話力の原則をひとつひとつ実践していきましょう。

② 人から学ぶ

 その道に傑出した人から学ぶことです。どんな道でもトップに立つ人は他人の何倍も努力しています。そういう人から学ぶことが大切です。また、異質な人との出会いを大切にすること。同質の人とかかわっていると居心地がいいですね。異質な人とのかかわりは、つらいかもしれません。しかし、そういうかかわりこそ、多くの気づきが得られるのです。ですから、異質な人との出会いを大切にし、自分磨きの道場だと思って、積極的にかかわってください。

 以上に加え、日頃から問題意識をもって人を観察することです。よいなと思う点は取り入れる。よろしくないなと思う点は、自らも気をつける。教師として、あるいは反面教師として人から学ぶようにしていきましょう。

③ 良い習慣をもつ

 良い習慣が自身を育てます。早起きの習慣、あいさつの習慣、整理整頓の習慣。なんでもよいのです。良い習慣をもつこと。良い習慣を継続すること。良い習慣を増やしていくことを心がけてください。

④ 忠告してくれる人を大切にする

 皆さんは、注意、忠告、アドバイスしてくれる人がいますか?叱ってくれる人がいますか?それは誰ですか?両親ですか?兄弟ですか?夫あるいは妻ですか。恋人ですか、友人ですか?いらっしゃいますね。幸せですね。

 一般に、年齢があがるほど、立場があがるほど、忠告してくれる人がいなくなりますよ。ある意味、寂しいことです。辛いことでもあります。なぜなら、そうなったら自分で気づいて自分磨きを続けるしかないのです。しかし、自分の姿は自分ではなかなかわからないものです。人に不快な思いをさせているのに、気づかないことがあるかもしれません。自分の至らない点を指摘してくれる人がいれば、自分のマイナス面に気づき、改善することができるはずです。

 私は話力の講師を30年以上務めてきました。現在は研究所の理事長という立場です。私の立場を知っている人は、なかなか話し方、聴き方について指摘してくれません。「あなたの話し方には。。。という問題がある。」と言ってもらえません。相手の反応を見ながら、自ら気づき、自ら改めていくほかないのです。ですから、話力講座にご参加くださった受講生のアンケートに書かれている感想は私にとって、たいへんありがたいものです。

 特に若い方は、今のうちです。あなたのことを思って本当のことを言ってくれる人を大切になさってください。時には辛いこともあるでしょう。しかし厳しいことばに耐える力をつけてください。そして、厳しいことばを自己改革のためのエネルギーに変えていこうではないですか。

⑤ 反省し、こつこつ改善

 忙しく、日々の仕事に追われ、必死で突っ走っていますと、自分を見失ってしまうこともあるかもしれません。時には立ち止まり、静かに自分の行動や言動を振り返ってみることが大切です。ただし、反省するだけでは、成長につながりません。一方で、すべてを一気に改善しようとしても、不可能です。人間ですから。少しずつ。少しずつ。「こつこつ改善」「日々改善」こうした努力を忘れないでください。

 7000回以上も講演を行っている社会教育家の田中真澄先生は話力を学んだ先輩です。先生の多くの教示のひとつに次のことばがあります。「凡人の10%の努力の継続が秀才を超える。」仮に凡人と秀才の能力の差が1:2だとします。毎年自分の能力を1割向上させる努力をコツコツ続けていくと、約8年後には自分の能力が2倍以上になり、秀才を超えるというのです。これは数字上のことですが、コツコツ努力することの大切さを表しています。

 私たちとともに、話力磨きをコツコツ続けていきましょう。

(7)いつでも、どこでも、誰にでも話せる 「内容力を高める」には?

 「心格力を高めるには」をテーマにお話ししました。心格力を高めることは、話力をつけるうえで大切な要素の一つです。しかし、それだけではいけません。どんなに人柄がよくても、話し方が上手でも、話す内容をもっていなければ話せません。おおぜいの前や、あらたまった場で話せないのは、話し方に問題があるからだと思っていませんか。その前に「話すべき内容を持っているか?」をふりかえってみてください。仕事や趣味のことなど自分が良く知っていることであれば、たとえあがったとしても、それなりに話せるはずです。また、事前に話すことがわかっていれば準備できますね。準備をすればなんとかなるでしょう。しかし、突然話さないといけないこともありますよ。おおぜいの前で恥をかかないためにも、日ごろから「内容力を高める」努力が必要です。

 内容力を高めるための努力ポイントは2つです。「インプット」すること。そして、インプットしたことを自分なりに整理し、考えをまとめ、「アウトプット」してみることです。インプットするには、他人の話を聴いたり、体験したり、本を読んだりしましょう。そして、いろいろなことに興味関心を持って、観察することです。ことばでいうのは簡単ですが、実践するのは難しいですね。まずは、意識的に興味を持ったふりをしてください。「これは何だろう?」「なぜだろう?」「どうして?」などと考えてみるのです。これを実践し、継続します。習慣にするのです。そうすると、自然にできるようになります。

 例えば、天皇陛下のお住まいである皇居は昔、江戸城でした。ご存知ですね。お城でした。お城には天守閣がありますね。皇居に天守閣はありますか?ないですね。なぜですか?いつからないのですか?

 奈良の東大寺の大仏は建物の中にありますね。本来、大仏は大仏殿という建物(仏堂)に安置されるそうです。鎌倉の高徳院にも大仏がありますね。鎌倉の大仏は大仏殿がありません。なぜですか?信号機は電気で赤、青、黄色を灯していますね?電気代はだれが払っているのでしょうか?

 疑問に思うだけでも楽しいですね。しかし、行動を起こさないと身につきません。疑問に思ったら、調べてみるのです。そして、忘れないように記録しましょう。

 こうして集めた内容を整理し、自分なりに考えて、「アウトプット」してみるのです。話したり、文章を書いたりします。こうした努力を日々繰り返すと、自然に話すべき内容が集まってきます。話をまとめる力がついてきます。人をひきつけるような個性的なアイデアがわいてきます。

 ところで、内容力を高めるためには、もう一つ重要なポイントがあります。「問題意識」をもつことです。中国の古典 四書五経の「大学」に、次の名言があります。「心焉(ここ)に在らざれば、視れども見えず、聴けども聞こえず、食らえども其の味を知らず。」今のことばに直せば、次のようなことでしょう。「心がここにない上の空の状態では、見ても正しく物を見ることはできず、聞いても正しく音を聞くことはできず、食べても本当の味を知ることはできない。」私は、問題意識を持たないと身につかないということだと解釈しています。

 例えば、皆さんはお金を使いますね。1000円札使いますね。毎日1000円札見ていますね。千円札の肖像画はどなたの肖像ですか?こう質問しますと、たいていの人は「あれっ、誰だったかな?」と思うようです。なかには千円札を取り出して確認する方もいらっしゃいます。「心ここにあらざれば、見れども見えず」ですね。

 ところで皆さんはでかけると必ず、信号機見ていますよね。赤信号は右側ですか、左側ですか?

 このようなことは、取るに足らないこと。どうでもよいことかもしれません。ここで申し上げたいのは、どうでもよいことは身につかないということです。問題意識を持たないと、身につかないということを自覚していただきたいのです。ですから、これはと思うことは、強烈な問題意識をもって、自分の身にすることが大切です。日々INPUTし、整理し、考え、OUTPUTする。コツコツ努力して自らの内容力を高めていきましょう。

(8)自らを生かす 「対応力を高める」には?

 「対応力」の要素として、「話し方」「聴き方」があると先にお話ししました。「なるほど、話し方、聴き方、ノウハウをつかんで身につけるのね。」などと考える方がいるかもしれません。しかし、対応力というのは、相手に対する思いやりや配慮が根底になければなりません。そして、努力が必要です。「気持ちよく聴いてもらおう」「わかってもらえるように話そう」「話しやすいように感じよく聴こう」こうした気持ちを形に表せる力が対応力です。つまり、自ら磨いてきた心格力、内容力を生かし、話の効果をあげるための対応力なのです。

 対応力を磨くということは、心格力、内容力を磨くことと切り離せるものではありません。ともにバランスよく磨いていくことが求められるのです。厳しいことですが、方法論、ノウハウを知って実践したからといってうまくいくものではないことを多くの方は経験されているでしょう。

 対応力を磨くために次のことに心がけてください。

① 場数を踏んで、場慣れする

 「下手な話は話してなおせ」と言われています。実践してみることが大切ですね。唐突ですが、皆さんは泳げますか?泳げる人は、最初から泳げていましたか?通信教育で泳ぎを覚えた方は?いらっしゃいますか?まず無理ですよね。話も同じです。たとえ人の話を聴いて、本を読んで学んだとしても、ノウハウをつかんだとしても、実践しなければうまくいきません。話してみると、最初はうまくいかないものです。「負けて覚える相撲かな」と言いますね。もちろん「勝って覚える相撲かな」とも言うのでしょう。しかし、負けたときほど、「しまった。何とかしなければ」との思いが強いのではないですか。あるいは、今まで気づかなかったことに気づくこともあるでしょう。「傷つかなければ気づかない」とも言いますね。「負けた」時の何とかしようという思いをエネルギーに変えて努力するのです。

 ところで皆さんは人前で歌を歌えますか?苦手な方もいらっしゃるかもしれませんが、少なくとも1曲、2曲歌える歌がありますよね。いわゆる「持ち歌」ですね。最初から「持ち歌でしたか?」何度も歌いこんで持ち歌にしたのではないですか?一方、人前で話すのはいかがですか?どれほど話せますか?話し込んできましたか?やはり、数をこなすことが大切なのです。

② 問題意識をもって他人を観察し、具体的な方法をつかむ

 ある会合に参加し、司会者から「それではお一人お一人自己紹介をお願いします。」と言われますと、多くの人がとまどいますね。特に、最初の方は困ります。どうすればいいか?最初の方が、姓名を名乗って、「よろしく」で終えると、以降も皆それに倣う傾向があります。これでは、せっかくの自己紹介が効果的ではありません。あるいは、ある会合で開会のあいさつを頼まれた。乾杯のあいさつを頼まれた。締めのあいさつを頼まれた。こういうことありますね。困りませんか?しかし、皆さん、こうしたあいさつをたくさん聴いてきているのではありませんか。それにもかかわらず、自らが指名されると、ハタと困る方が少なくありません。自分が行うとしたらどうかといった問題意識をもって、他人を観察し、その方法を評価し、良い点を取り入れていく努力をなさってください。

③ 他人からアドバイスを受ける

 話した後に他の人からアドバイスを受け、参考にします。聴き手の立場からどうだったかといった情報が得られます。できれば、時々専門家からアドバイスを受けられれば、さらに良いでしょう。しかし、アドバイスを受けるだけでは、意味がありません。自らコツコツ改善努力していくことが大切です。

④ 原則を守る

 話す、聴くことを効果的に行うための原則があります。これから、話の効果をあげるための基本的な原則をお伝えしていきます。これらの原則を理解し、守り、実践する努力をなさってください。自己流では、失敗することもあるでしょう。聴き手に違和感を与えてしまうかもしれません。独りよがりになっていることに気づかないかもしれません。

 話し手や聴き手の一般的な心の法則に従って、効果をあげるための原則があります。心格力、内容力、そして対応力をバランスよく磨くために、話力の原則を守り、実践しましょう。

TOP