ビジネスコミュニケーション「仕事がはかどる話し方のコツ」
◆よりよく生きるためのツール ~ 究極のコミュニケーション能力を磨く ~
改訂第2版「4.効果的な自己紹介」
話力総合研究所 理事長
~ コミュニケーション はじめの一歩は「自己紹介」 ~
(1)効果的な自己紹介で “好印象”
「人間関係は出会いによって始まり、お互いの努力で実る」と言えましょう。好意的な人間関係を築いていく最初の一歩、最初の努力はあいさつと、「自己紹介」ではないでしょうか。面識のない人たちが集まれば必ず自己紹介をしますね。地域社会でも、仕事でも。見知らぬ人の集まり、異業種の集まりの際に、ひとりぽつんとしているなどということはありませんか?周囲にちょっと声をかけて、自己紹介をすれば、お互いの距離が近づきますよ。一般の方を対象とした講演会でもそうですね。隣に座った方と一言もことばを交わさないこともあるのではないですか。講演の始まる前、終わったあと、ちょっとことばを交わして、自己紹介をすることで、新たな関係を築けるかもしれません。
また、自己紹介はスピーチの基本です。おおぜいの前で話す時には必ず自己紹介をしますね。そして、おおぜいの前で話す時の基本要素が自己紹介の中にすべてあります。自己紹介を磨くことは、おおぜいの前で話すスピーチやプレゼンテーションの力をつけるうえでも大切なのです。
ある会合に出席します。司会者から「お一人1分程度で自己紹介をお願いします」と声がかかります。その瞬間、会場全体が少々緊張感に包まれます。この時、最初の方が「Aです。よろしくお願いします。」と言いますと、次々と「Bです。よろしくお願いします。」「Cです。よろしくお願いします。」と右に倣えで続くことが多いように感じます。もったいないですね。せっかく自分を紹介できるチャンスを1分間もらったのに。あるいは、あいさつして、名前を言って、仕事の話をして、趣味の話をして、よろしく。などと最初に話の組み立てを決めてしまう人もいますね。自己紹介は何のために行うのか?その意識が足りないのかもしれません。
話すからには何らかの目的があると以前にお話ししました。目的を達成してこそ話した甲斐があるのです。これを話の効果があがったというのです。では、自己紹介の目的は何でしょう。効果的な自己紹介を行うためには、この意識を持つことが大切です。話し方や話の内容は目的を意識し、聴き手を意識して決めるのです。目的を達成するために、どんな内容を、どういう構成、話し方で話せばよいかを目的や聴き手に応じて考えます。
自己紹介の目的は、一般には名前を覚えてもらう、よい人柄をわかってもらう、良い印象を持ってもらうことですね。もちろん、社会的に許容される範囲であれば、これらを基礎に相手に応じてどのような目的で自己紹介をしてもいいのです。要は、何のために自己紹介をするのかを明確にすることが大切だということです。
(2)名前を覚えてもらう
自己紹介の目的の一つは名前を覚えてもらうことでしょう。そして、これは最も基本的で、最も重要な目的です。少なくとも名前を覚えてもらえたら、自己紹介は成功だったと言っても良いでしょう。では、どのように名前を印象づけるか? 次の項目を参考に工夫してください。自分だけの個性的な自己紹介を身につけましょう。ただし、品位と教養、それから親しみを感じさせるように。相手や場にもよりますが、あまり砕けすぎないように注意してください。
① フルネームをはっきりと
「佐藤です。」「田中です。」「鈴木です。」などと苗字のみ伝える人がいます。しかし、せっかくの自己紹介の機会です。フルネームを印象づけましょう。ゆっくり、はっきり「皆さん、こんにちは。私は、秋田義一と申します。」と相手に聴こえるように発音します。できれば、自己紹介を終えるときに、もう一度フルネームで「秋田義一です。よろしくお願いします。」と伝えると印象に残ります。
② どんな文字を書くのかをわからせる
音声はすぐに消えてしまいます。話している間に名前を忘れられるかもしれません。ホワイトボードなどに名前を書くことができれば、印象に残ります。どうしても視覚的に印象に残すことができない場合は、ことばでどんな文字を書くかを伝えましょう。例えば、「秋田県の秋田に、正義の義、漢数字の一で、秋田義一と申します。」「利根川の川に、原っぱの原、健康の康と書いて、川原康(かわはらやすし)です。」などとします。
③ 文字や音を意味づける
名前の文字や、音をどうにか工夫して意味を持たせるようにします。何の意味もない音声を伝えるよりも、はるかに印象に残ります。例えば、次のように工夫します。
『安田英夫と申します。「あんた(安田)え~(英)おっと(夫)」と読めますが、妻に言わせると、休日はゴルフ三昧で家庭を顧みない「ひで~(英)おっと(夫)」のようです。』
「名簿に、書いてるよ。 甲斐照代です。」
「海住常幸です。海に住むと書きます。先祖は海賊だったと聴いています。今も海の近くに住んでいます。名前は常幸です。海の近くに住んで、常に幸せです。皆さん、自然を大切にしましょう。」
④ 地名や有名人と結びつける
聴き手が良く知っていると思われる地名や有名人と結びつければ、すぐに名前を覚えてもらえるでしょう。「秋田県の秋田です。」「織田信長と同じ織田です。」「野口秀樹と申します。野口英世の野口ですし、湯川秀樹の秀樹です。なんともたいへんな名前です。がんばるしかありません。」
皆さん、いかがでしょうか。これらは、あくまで一例です。自分らしい、個性的かつ効果的な自己紹介を工夫し、自分の名前を印象づけましょう
(3)人柄をわかってもらう
皆さんは自己紹介というと仕事の話、趣味の話をするものだと思っていませんか? 誰もが仕事の話、趣味の話ではあまり印象に残りません。そればかりか、「仕事の説明」、「趣味の説明」では、自己紹介とはいえません。自己紹介の目的は、名前を覚えてもらい、自分の良い面をわかってもらうことです。良い人だと思ってもらい、親しくかかわりあえる人物であることをわからせることが大切なのです。そのために、次のことを意識しましょう。
① 職業や趣味と結びつける
仕事や趣味の話をしてはいけないということではありません。仕事や趣味を題材にして、自分自身をわかってもらうひと工夫がほしいのです。仕事の説明、趣味の説明で終わらせないようにしましょう。「職業や趣味」を自分の人柄に「結びつける」のです。
難しいことではありません。なぜ、今の仕事を選んだのか?やりがいを感じるのはどんな時か?どういう心構えで仕事に取り組んでいるか?こうした要素を加えてみましょう。
趣味についても同様です。いつ頃から打ち込んでいるか?きっかけは何だったか?どんなところに興味を持っているのか?楽しいか?気持ちを表してみましょう。
自分の仕事や趣味のことでしたら、よくわかっていますから、かなり余裕をもって話せますよね。このメリットを生かし、自分らしい効果的な自己紹介を心がけましょう。
② 出身地や出身校と関連づける
出身地や出身校を紹介すると、同じ出身地、出身校の人は、より親しみを感じるものです。私が理事長を務める話力総合研究所では、定員8名の話力講座を毎月開講しています。講座が始まる前後の会場の雰囲気はたいていの場合、少々堅いです。初めて参加される方ばかりですと、特にその傾向が強いです。講座の前半に自己紹介のスピーチ実習を行います。何人かの自己紹介が終わると、会場の雰囲気が変わります。和やかになります。
ある時、なんと珍しいことに、青森出身の方が8人中4名もいらしたのです。自己紹介の実習が終わると、皆、顔を見合わせ、「あなたも?」「あなたも」にこやかな表情で親しく話していたのが印象的でした。
出身地や出身校を話すだけでも、それなりの効果があります。出身地や出身校に対する思い、気持ちを語れば、さらに効果的でしょう。
③ 生活信条や読書傾向などを示す
相手の考え方や嗜好を知れば、親近感がわきますし、かかわりやすくなります。ですから、自らの生き方にさりげなく触れることば(信条、モットー)や、読書傾向、好きな著者、興味を持っている情報を紹介すると効果的です。
この場合も、単に紹介するだけではなく、どのようなきっかけで信条にしたのか、なぜその本が好きなのか、具体的に話すようにします。また、それを自分の仕事や日常にどのように役立てているかを話すとより効果的です。
「継続は力なりと言います。継続するには努力が必要です。そして、成功するまで努力を継続しなければ意味がありません。私は、あせらず、じっくり、コツコツ努力することをモットーにしています。」
「私は歴史小説が好きです。歴史の勉強にもなりますし、登場人物のことばや行動が生き方の参考になると思っています。特に、山岡荘八の「徳川家康」に感銘を受けました。戦国時代の話なのに、家康の平和への願い、人への愛、やさしさが語られています。それは山岡先生の願いでもあるのだなと思っています。私も人にやさしくを心がけたいです。」
いかがでしょうか? その他にも、会合の目的や出席者に応じて、家族構成やペットの話から、自分の人柄を紹介したり、参加動機や意気込みを語るのも効果的ですね。
自分自身をより深く知り、自分の個性、よい人間性を効果的に表現できる力を磨いていきましょう。
(4)良い印象をもってもらう
効果的な自己紹介のポイント。最後は「よい印象をもってもらう」ことです。聴き手に親近感を持ってもらえるような自己紹介を工夫しましょう。「よさそうな人だな」「面白そうな人だな」「感じのいい人だな」「ちょっと話してみたいな」「知り合いになりたいな」などと思わせることができれば成功です。
相手、聴衆や、集まりの目的に応じて、話の内容を選択します。具体的には、次のような話をしたらよいでしょう。
① 名前の由来を話す
興味深い名前の由来があれば、紹介しましょう。印象に残ります。
『~千秋と申します。両親はなかなか子供に恵まれず、ようやく授かったということで、「一日千秋」の思いから、千秋と名づけてくれました。』
『~義一と申します。生まれたときは未熟児でした。強い子に育ってほしいという願いを込めて、源氏の棟梁、源義家の「義」の字を採ったそうです。』
『~ひとみです。ひらがなで、ひとみです。3歳違いの兄がつけました。兄は「ひとみ」がいいと言ってきかなかったそうです。なぜ、「ひとみ」がいいと思ったのか、兄に聴いてもわかりません。3歳の兄がつけたので、ひらがなです。』
② ニックネームを紹介する
個性的なニックネームは、印象に残ります。親近感がわきます。なぜ、そのニックネームなのか。そのニックネームについて、自分はどう思っているのか。簡潔に紹介するとより効果的です。
『ニックネームは「ドラえもん」です。学生時代に同級生から言われるようになりました。当時太っていて顔が丸かったのです。それから、ポケットにいろいろなものを入れていたのです。今もほら。懐中電灯。笛。浄水剤。印鑑。メモ帳。USBメモリ。清浄綿、携帯カイロ。。。ですから、ドラえもんです。』
『ニックネームは「チョンちゃん」です。事務所に来た郵便物にちょっきん、ちょっきんと毎日ハサミを入れていました。そうしたら、いつのまにか周囲から「チョンちゃん」と言われるようになりました。かわいらしい表現なのでよいかなと思っています。』
いかがでしょうか。その他、主催者や主賓、来場者との関係を紹介する。前の人の話と関連させる。参加動機や今の心境を話す。自分にまつわるエピソードで印象づけるなど、より個性的で、効果的な自己紹介を工夫してみましょう。
(5)より効果をあげるために
人と人をつなぐコミュニケーション。その第一歩は「自己紹介」です。自分らしい、個性的で効果的な「自己紹介」をなさってください。効果をあげるためには、自己紹介の目的を意識するのでしたね。名前を覚えてもらう。よい人柄をわかってもらう。良い印象をもってもらう。こうしたことを意識してください。
いつも同じ内容の自己紹介では、あまり効果的ではありません。参加した会合や、自己紹介を聴いてくれる聴き手に応じて、より効果があがるよう内容や構成を変える必要があるのです。少なくとも、5つくらいの自己紹介を持ちましょう。仕事の話を中心にした自己紹介。趣味の話を中心にした自己紹介。特別なエピソードを紹介する自己紹介など事前に用意しておきましょう。
また、話をした後で、話した内容を書き留めておくと、次の機会に役に立ちます。スピーチ上達法は「話した後にまとめろ!」です。話をすると、おそらく「あ~話せばよかった。こ~すればよかった」と反省があるはずです。その反省を生かして、忘れないうちに文章を手直ししておくのです。書き留めておかないと忘れてしまいます。書き留めておくと、必ず次の機会に生きます。そのうえ、自分の自己紹介のレパートリーが増えていきます。ぜひ、実践なさってください。
実際に自己紹介をするときは、特に最初と最後が肝心です。唐突に話が始まり、聴き手がとまどってしまう。せっかく良い内容だったのに、しまりが悪く、なんとなく終わってしまった。これでは、せっかくの自己紹介の機会を十分に生かしきれず、残念です。慣れるまでは、次のように行うことをおすすめします。
① 指名されたら返事をする。全員に聞こえる声で、「ハイ!」
マスクをしていたら、はずす。上着のボタンをとめる。
② すぐに行動。きびきびと。背筋を伸ばし起立する。この時、静かに椅子を整える。
③ 落ち着いてにこやかな表情で、所定の場所へ移動する。
④ 会場全体をにこやかに確認する。
⑤ あいさつ。はっきり聞こえる声でさわやかに。同時礼で。頭をさっと降ろしてゆっくり上げる
⑥ 拍手が鳴りやむまで、にこやかに待つ。
⑦ 名のる。フルネームをはっきり言う。
⑧ 予定した内容を話す
⑨ 印象に残すまとめを工夫する
⑩ 名のる
⑪ あいさつ 例えば「秋田義一です。本日はよろしくお願いします」とする。
最後まで、はっきり聞こえる声でさわやかに。同時礼で。頭をさっと降ろしてゆっくり上げる
⑫ 拍手が鳴りやむまで、にこやかに待つ
⑬ 背筋を伸ばし、きびきびと自分の席に戻る
いかがですか?魅力的な自己紹介を心がけましょう。
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