ブログ

理事長ブログ「忘己利他」N8

ビジネスコミュニケーション「仕事がはかどる話し方のコツ」
 ◆よりよく生きるためのツール ~ 究極のコミュニケーション能力を磨く ~

改訂第2版「7.話の効果をあげる表現の三原則」

理事長

話力総合研究所 理事長
発音発声の指導

 聴き手が話の効果を決めるのですから、聴き手に対応して話さなければ効果があがりません。話の効果をあげるには「聴き手の心の法則に従って話せ」とお話ししました。しかし、そんなこと言われても困りますよね。聴き手の「心の法則」などわかりようがありません。「聴き手に対応して話せ」と言われても、難しいです。よほど気心が知れていれば、何とかなるかもしれませんが。。。

 そこで、多くの人が許容するであろう話し方を身につける必要があります。話の効果をあげる「表現の三原則」です。「感じよく」「正確に」「わかりやすく」話すことです。まずは表現の三原則に従い、そのうえで聴き手に対応していく努力をなさってください。

(1)感じよく話す

 相手に自分の話を聴いてもらうためには、感じよく話すことです。決定権をもっている聴き手に「感じが良い」と思わせる話し方、ことばづかいを心がけてください。具体的には、次の点を意識してください。

① 肯定的に話す

 肯定の反対は「否定」ですね。時々ならばよいかもしれませんが、否定ばかりされると面白くないものです。

「あそこのお店、安いね。」「高いよ!」

「ここのラーメンおいしいね。」「まずいよ!」

「今日は寒いね。」「別に寒くないよ!」

こうしたことが繰り返されますと、徐々に人間関係が損なわれます。あるいは、何かをきっかけに、それまでに蓄積された鬱憤が爆発することもあるかもしれません。

 「正直者が嫌われる」と言いますね。自分に正直なのは良いのですが、相手への配慮に欠けると、よからぬ波紋を投げてしまうかもしれません。30数年前ですが、いまだにおぼえていることがあります。20代前半の部下Uさんとともに客先へ向かっていました。寒い日でした。私はUさんに声をかけました。「今日は寒いなぁ。U君は北海道出身だったね。この程度では寒くないか?」少しの沈黙の後、Uさんがことばを発しました。「寒いと言っても暖かくなるわけではありません!」私は思わずことばに詰まってしまいました。Uさんの言ったことは確かにその通りです。反論の余地がありません。しかし、なんとも心を乱される表現です。たわいのないおしゃべりですから、白黒つけなくてもよいのではないでしょうか?「そうですね。寒いですね。」と返しておけば、気持ちよく会話ができたはずです。

 「熱意が空回り」ということもあります。営業の担当者が顧客に商品の説明をすると、顧客から「おたく高いよ!」と言われてしまいました。熱心のあまり、カバンの中から競合他社との価格比較表を出して見せ、「何言っているんですか!A社、B社、C社、当社。ほら、うちが一番安い!」 いかがですか?場合によってはお客さんから「帰れ!二度と来るな!!」と言われかねないのではありませんか。頭ごなしに否定されると感じが悪いですね。否定するなということではありません。否定する場合も、相手が受けとめられるよう感じよく否定する表現を工夫することです。

 例えば、肯定的に否定する。Yes Question法、あるいはYes but法を用いるとよいですね。まずは「そうですね」と相手の言い分を受けとめ、相手の自尊心を守ることです。そのうえで、「でも、こういう場合はどうですか?」などと柔らかく切り返していくことが大切です。先ほどの例では、お客さんから「おたく高いよ!」と言われた。それを受けとめて、「そうですね。お客さんにとっては安いほどいいですよね。ですから、当社も努力しているのですよ。ちょっとこの資料をご覧になってくださいますか。。。」などと表現すればどうですか?これで成約するほど実際は甘くないでしょうが、少なくとも「二度と来るな!」とは言われないですね。

 もちろん、肯定してはいけないケースもありますから、状況によって対応なさってください。自分で言っても、人に言われたくないことがありますよ。

「最近、髪薄くなってきて。。。」「本当に薄くなりましたね!」

「ちょっと太ってきて。。。」「なるほど、かなり太りましたね。」

「ボケたかな!?」「相当ボケましたね!!」

こんな風に他人から言われたくないですね。

② 明るく話す

 暗い表現では、ことばの意味にない意味を感じてしまうものです。あるいは嫌な感じを聴き手に与えかねません。本当かなと疑いたくなることもあるでしょう。

 例えば、帰宅して「ただいま」。普通に表現すれば、家族が「おかえりなさい」と言ってきますよね。暗く表現したらどうでしょうか?「ただいま」ことばは同じですが、家族の方は何と言って出てくるでしょう。「どうしたの?体の具合でも悪いの?」「職場で何かあったの?」などということになりませんか?

 職場の宴会に遅れて参加したとき、仲間は何と声をかけてきますか?「お~。遅かったな。先にやってたよ。まず、一杯。料理もとっておいたよ。さあ、乾杯!」普通に表現されれば、これで済みますね。「お~、ごめんごめん。」と言って、飲んだり食べたり始まります。一方、仲間から暗く言われたらどうですか?「お~、遅かったなぁ。。。ほら、まず一杯。飲め!料理もとっておいたよ。。。食べろ。ほら食べろ。」暗く言われたら、不気味ですよ。飲めないのでは?食べられないのでは?何かいたずらされていないか!?などと余計な心配する人もいるかもしれません。

 聴き手にことば通り受け取ってもらうためにも、適度に「明るく」表現する必要があるのです。

③ 聴き手に不快を与えないように「快く」話す

 「ものは言いようで角が立つ」と言いますね。相手が快く感じることばづかい、語調、表情、態度を意識なさってください。

(2)正確に話す

 つづいて、聴き手に誤解を与えないように「正確に話す」ことが大切です。具体的には次の点を意識なさってください。

① 筋道立てて話す

 話がずれたり、飛んだりしないように順序良く話すよう心がけます。論理的に矛盾したり、破綻することがないように気をつけましょう。

 以前の話です。夏の暑い日でした。通りを歩いていますと、洋菓子店の前で、店員が通行人に声をかけていました。

「焼きたてのケーキはいかがですか?良く冷えていますよ!」

 私は「はてな!?」少々考えてしまいました。「焼きたて?良く冷えている?。。。」まあ、そんなに考えるほどのことではないですよね。言い間違えただけです。「できたてのケーキはいかがですか?良く冷えていますよ」ですね。しかし、ちょっとした言い間違えが聴き手を混乱させることもあるので注意が必要です。聴き手が余計なことを考えてしまうと、その後の話を聴けなくなってしまいます。

 また、「楽しかったことについて話します。」と予告をして話しはじめ、「以上、うれしかったことについて話しました。」ずれていますね。「楽しい」と「うれしい」は意味が違います。

 こうした点に注意し、聴き手に誤解を与えないよう筋道立てて話す意識を持ちましょう。

② 具体的に話す

 抽象的に話すといろいろな解釈が可能になります。話し手と聴き手の感じ方、とらえ方は違います。自分が話そうとすることを正確に伝えたいのであれば、より具体的に話すことが大切です。話し手が頭の中に描いている意味、内容を、ことばを介して聴き手の頭の中に描かせるのです。

「私の趣味はゴルフです。私はゴルフが大好きです。」

「映画が趣味です。この間、良い映画を見ました。」

「毎日本を読んでいます。おもしろい本がたくさんあります。」

 ゴルフが好きなんだ。良い映画を見たんだ。おもしろい本があるんだ。と、ことばを受けとめることはできます。しかし、こうした表現では、いったいどれほど好きなのか、どのように良かったのか、わかりません。「おもしろい」本は、笑える本だったのか、内容が有益だったのか、話し手が伝えたい意味は伝わってきません。聴き手に伝えるには工夫が必要なのです。

 「普段の休日は、お昼頃まで家でゴロゴロしているんです。しかし、ゴルフの日は違います。前日にゴルフクラブの手入れをして、バッグに入れ、枕元に置いておきます。ゴルフ場は近いので、8時に出かければ間に合うのです。なぜか、5時には目が覚めます。前日に手入れしたクラブを出しているんです。気づくと、庭で素振りを始めています。」これはいかがでしょうか? 「ゴルフが好きだ」とことばでは言っていませんが、伝わってきませんか?

 その場の状況をわからせたい、臨場感を出したいのなら、擬音語を工夫します。擬音語とは物音(擬態語)や鳴き声(擬声語)を表現したことばのことです。「雨が降ってきた」と言っても、どのように降っているかわかりません。ひとこと擬音語を使うだけで様子がわかります。

「雨がしとしと降ってきた」「雨がざあざあ降った」「雨がごうごう降っている」

「風がそよそよ吹いている」「風がぴゅーぴゅー吹いてきた」「風がごうごういっている」なんとなく状況をイメージできますね。

 また、その場の会話を直接再現して表現するのも場合によっては効果的です。直接話法と言います。かなり以前のことですが、印象深い自己紹介でしたので、今でも覚えています。Kさんが話力講座を受講くださった時のことです。

 『この講座を受けたかったのですが、先週まで入院していました。おかげさまで、退院し受講できました。入院中は点滴を打たれていました。私は静脈が表面に出てこないので、注射器の針を刺すのが難しいようです。その病院の婦長さんはたいへん上手に一回で刺してくれました。一度、たいへんな思いをしました。研修医の先生です。

ブスッ。「あっ」 針抜きます。

ブスッ。「あっ」 針抜くんです。

何度もやり直します。しまいに腕が腫れてきます。血がにじんできます。

私は訴えました。

「先生!婦長呼んできてよ。だめだよ!!」

先生が応えます。

「Kさん。私も研修医としてプライドがあります。最後までやらせてください。」

「先生。。。頼むよ~!。。。」 』 

たいへん臨場感があって、印象的でした。

③ 共通の意味にとれることばを使う

 大きい、小さい。高い、低い。高い、安い。遠い、近い。広い、狭い。等々。そのことばだけでは、聴き手の理解が話し手と同じとは限りません。

 若い頃の体験です。夏休みに旅に出て、現地で宿までの道を尋ねました。地元の方はすぐに答えてくれました。一本道を指さし、「こっち歩いて行けばすぐだよ。」 はたして、気温30度の坂道を30分以上歩きました。

 話し手と聴き手が共通の意味にとれるよう心がけてください。

④ 共通の方法を用いる

 例えば、直立不動で「あちらをご覧ください」と言ったらどうですか? 皆さんはどちらを向きますか? 右を向く人、左を向く人、左右に首を振る人。「えっ」という表情を浮かべて固まってしまう人。いろいろではないでしょうか? ことばだけでは意味が通じないことがあります。こうした場合は、意図した方向を手で示し、視線を添えてから「あちらをご覧ください」としますね。このような話し手と聴き手が共通の認識にたてる方法を心得ておくことも必要です。

 表現の三原則その二「正確に話す」。聴き手に誤解を与えないように「正確に話す」ことを心がけましょう。

(3)わかりやすく話す

 表現の三原則。最後は、わかってもらうためには「わかりやすく話す」です。「どんなに良いアイデアを持っていても伝わらない。わからせるには相当の訓練が必要だ」ある著名な大学教授がこんなことを言っていました。国の委員会に出席し、いろいろとアイデアを提案した。。。しかし、十分な理解を得られなかった。と、たいへん残念そうでした。

 「わからせるには相当の訓練が必要だ!」その通りですね。しかし、やみくもに訓練しても効果的ではありません。何を訓練するのか? まずは、聴き手に対してわかりやすく話す訓練ですね。わかりやすく話すには次の点を意識しましょう。

① わかりやすいことばを使う

 外国語、学術用語、専門用語、業界用語、方言は相手に応じてですね。聴き手によっては、平易なことばに置き換えたり、そのことばの意味内容を説明するなど工夫が必要です。

 「アメニティが不足し、アクセスも悪くては、メンタルヘルスへのインパクトが大きい。」文章であれば、なんとなくわかるかもしれません。しかし、音声として話されたら、わかりませんよ。

 「住まいの環境があまり快適でなく、交通の便も悪いと、心の健康に及ぼす影響は大きい。」こう置き換えれば、なるほどと思いませんか?

 「ギガバイト」コンピュータの記憶容量を表す単位ですね。「ギガバイト 時給いくらか 孫に聞く」などという川柳がありますよ。

 略語、流行語や、いわゆる「仲間ことば」なども要注意です。「カコモン」「トリセツ」「シュウカツ」「イクメン」わかりますか?それぞれ「過去の試験問題」「取扱説明書」「就職活動」「育児をする男性」ですね。中にはわからない人もいますよ。

 音声では意味がわからないことがあります。普段は文脈から推測して理解しています。音声はすぐに消えてしまいますから、文脈から推測するのもかなり厄介です。特に同音異義語に気を配ってください。誤解されないように。戸惑わせないように。

 「かんこうぎょうの設備関係の仕事です。」わかりますか?「観光業?」戸惑いますよ。「管工業」ですね。

 「いりょう関係の仕事をしています。」 「医療」「衣料」どちらですか? 

 その他にも「礼遇」「冷遇」。「私立」「市立」などたくさんあります。できるなら、漢語は和語に置き換えたほうがわかりやすいですね。「病(やまい)の医療です」「着るものの衣料です」などとします。また「わたくしりつ」「いちりつ」はよく使います。

② わかりやすい発音・発声を心がける

 声が届かず、聴こえなかったり、もごもごしていて何を言ったかわからなければ、効果的ではありません。聴こえる声で話す。明瞭に発音する。こうした意識が必要です。声が小さいなどは、ほとんどの場合、生まれつきではありません。長い間の生活習慣や発音方法に問題があるのです。日頃から次のことを心がけると改善されます。

 ・腹式呼吸で、お腹から声を出す

 ・正しく口を開ける(母音の口の形を意識する)  図.口の形

・声を出して発声練習をする
(ゆっくり、正確に 「アエイウエオアオ カケキクケコカコ 。。。」)

 ・口を滑らかにする訓練(滑舌法)を行う
 早口ことばを使って、一語一語ゆっくり正確に発音し、徐々に滑らかに言えるようにし ます。

 それから、音の似ていることば、類音語も同音異義語と同様に気を配ってください。「日比谷」「渋谷」、「一時(いちじ)」「七時(しちじ)」、「2,3」「2千」、「医学部」「理学部」などです。

③ わかりやすい言い方

 以上お話してきましたが、その他にも聴き手がわかりやすいと思うように気を配りながら話をなさってください。

あいまいな表現にならないように。

職場で、

「あれ、やっといて!」「あれですね。やっときます」

「あれ、やってないじゃないか」「あれ!?」

なんてことにならないように気をつけてください。

 修飾語と被修飾語の位置関係や、修飾語の長さも注意が必要です。

「美しいアルプスの女性」これでは、アルプスが美しいのか、女性が美しいのか混乱します。

「先日転勤したAさんの弟さん」転勤したのはAさんなのか、弟さんなのかわかりません。

「アルプスの美しい女性」「Aさんの弟さん。先日転勤したのですが。。。」とした方がいいですね。

 それから、文はできるだけ短く区切ったほうがわかりやすいです。時々、文を切らないで話す方を見かけます。「~なので、~で、~だから、~ですし、~。。。」何を言いたいのか?結論は何なのかわかりにくいです。

 また、広さや高さなどを伝えるときは、基準を示したり、比較するとわかりやすくなります。「東京ドームの2倍の広さです。」「甲子園球場と同じくらいの広さです。」

 「釣り名人はさすがです。魚を2匹釣りました。」「2匹釣って、釣り名人?」ぴんと来ませんね。比較すると納得感が出てきますよ。「釣り名人と釣りに出かけました。我々は1匹も釣れなかったのですが、釣り名人は2匹釣りました。さすがです。」

 表現の三原則「感じよく 正確に わかりやすく」を意識し、より効果的な話を心がけましょう。

TOP