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理事長ブログ「忘己利他」N12

ビジネスコミュニケーション「仕事がはかどる話し方のコツ」
 ◆よりよく生きるためのツール ~ 究極のコミュニケーション能力を磨く ~

改訂第2版

「11.効果的に知らせる(報告する)術(すべ)を磨け!」

理事長あいさつ

一般社団法人 話力総合研究所 理事長
感謝の集い 理事長あいさつ

(1)人生は報告の連続

 「報告」は、相手が知りたがっていること、自分が知らせたいことを正確に、簡潔に、タイミングよく「知らせる」ことが目的です。

 「人生は報告の連続」です。自ら直接知ることができることがらは限られます。多くの人の協力で、より多くのことがらを間接的に知り、知識の蓄積や判断、行動に役立てていますね。職場では、個々人の活動に関わることがらを「情報共有」しながら、職場全体として意思決定し、活動しています。報告・連絡・相談・打合せの重要性を認識し、おろそかにしないよう「報連相(打)を忘れるな」「報連相(打)が大切だ」などと言われています。

 時々「風通しがよくない職場」「風通しがよくない会社」などという話を耳にします。世間に知られるような大きな問題を起こした会社に対して言われることが多いようです。少し前の話です。ある社会問題を起こした企業に対して、マスコミは「良い会社なのだが、以前から風通しが良くなかった。現場の問題が経営トップまで伝わらない。風通しを良くしなければ。。。」と指摘していました。問題発生直後にその企業の株主総会に出席しました。担当役員の報告で、彼はその事柄が発生した年を1年言い間違えました。社長をはじめ、周囲の役員は気づいたはずですが、最後まで指摘しませんでした。「なるほど、風通しが悪いと言われるはずだ」と感じました。

 報告は受ける側の利益につながります。職場の利益につながります。それは企業の利益であり、内容によっては社会の利益にもなり得ます。ですから、報告しない、誤った報告、下手な報告は問題です。人間関係、信頼関係に影響します。職場がぎくしゃくしてきます。「なんでそんな重要なことを今まで黙っていたんだ!」と言われないように、心配りしなければなりません。

 営業担当が上司に報告します。「A社に行ってきました。うちの製品を評価してくれました。」上司はてっきり契約が取れるものと期待したのですが、ライバル会社に取られてしまいました。上司から「君は評価されたと言っていただろう。話が違うじゃないか」と言われないように、適切な報告を心がけなければなりません。

 正確に、簡潔に、タイミングよく報告することを心がければ、人間関係、信頼関係、評価が高まります。周囲との関係も良好になり、仕事がしやすくなります。仕事だけではありません。家庭で実践すれば、家庭円満につながります。報告の重要性を意識して、実践していきましょう。

(2)報告は難しい!?

 皆さんは、話せば伝わると思っていませんか? 簡単なことでも伝わらないことがありますよ。

「昨日来社されたAさんは、衣料関係の仕事をされているそうです。」
「そうか、医療関係の仕事か。」???

「X市役所に行ってきました。職員のBさんからX市のよさについて聴いてきました。」
「X市の予算ね。」???

 不用意に話していると、ちょっとしたことでも、このようなことになるかもしれません。複雑な内容ならなおさらです。話は伝わらないものです。正しく報告する。つまり、自分が伝えたい内容を正しく相手に伝えるということが、どれほど困難なことか考えてみましょう。

 下の図を見てください。

報告の過程

図 報告の流れ(過程)

 この図は報告をするときの主な手順(プロセス)を示しています。これから報告しようとする事柄全体を仮に100%という数字で表します。

 報告するときは、この報告すべき事柄を把握しようとしますね。普通、報告すべき事柄をすべて完璧に把握できますか?まあ、単純な事柄ならできるかもしれません。しかし、内容が複雑になればなるほど困難です。ここで仮に8割把握したとします。100%の「報告すべき事柄」の8割ですから、80%を把握しました。図の①のところです。これを相手に話すのですが、そのまますぐに話せますか? 多くの場合、どのように伝えるか考えますね。把握した内容を頭の中で話にまとめます。すべてまとめられますか?難しいですね。仮に8割まとめられたとします。そうすると、把握した内容80%の8割ですから、報告すべき事柄全体の64%です。図の②です。次に、頭の中でまとめた内容をことばに出します。ここでようやく相手に話をするのです。これが報告することですね。さて、頭の中でまとめた内容をすべて正確に話せますか?ここでも仮に8割話せたとします。結局、報告すべき事柄全体の51%を相手は音声として受けるのです。しかし、相手は話された内容をすべて聴けますか?ここでも仮に8割聴けたとします。報告すべき事柄全体の41%しか伝わらないという結果になりました。もちろん、これは仮の話です。しかし、報告の受け手は、報告すべき事柄全体の41%から全体像を推測するというたいへん困難な作業を強いられるかもしれません。

 報告の効果をあげるためには、報告する側と受ける側が、図の①から④それぞれの段階で、それぞれの比率を上げる努力をすることが大切なのです。

(3)効果的に報告するための準備

 効果的に報告するためには準備が大切です。報告すべき事柄について、できるだけ十分に把握することです。ただし、やみくもに把握しても非効率です。5W3H(いつ、誰が、どこで、何を、なぜ、どのように、どのくらい)を把握してください。そして、報告点をしっかり押さえることです。報告点とは、相手が知りたがっていること、自分が知らせたいことでしたね。報告点のない、あるいは報告点がぼやけた報告は、受け手(聴き手)を戸惑わせたり、イラつかせることになりかねないです。

 皆さんは経験ありませんか? 混雑している通勤電車が突然停車します。車掌のアナウンスが流れます。

 「ただいまこの電車は停車しています。前を走る電車が次の駅で停車しているため、この電車は発車することができません。前の電車が発車次第、発車いたします。お忙しいところ、まことに申し訳ありません。もうしばらくお待ちください。」

 イライラしませんか?

 「何やってんだ! まったく。こんなところでとめやがって」などと周囲の乗客の声がブツブツ聞こえてきませんか。このアナウンスを聴いて、なぜイライラするのですか?皆さんは、このような時に何を知りたいですか?

 そうですね。前を走る電車はなぜ止まっているのか? 何があったのか? いつ走り出すのか? 皆さんが知りたいことですね。これが報告点です。先ほどのアナウンスには。この報告点が一切入っていないので、イライラするのです。

 まずは報告点、つまり相手が知りたがっていること、自分が知らせたいことを外さない。そして、この報告点を適切なことばにする。相手に正しく伝わるように気を配ります。その際、事実を正確に伝えるよう意識しましょう。ポイントは、「推論」、「断定」、「含ませ」に気をつけることです。

 「推論」推し量ること。予想することですね。これはわかりますね。A君が遅刻した。「また、寝坊か?」これは推論です。確認しなければわかりません。たとえ、これまで寝坊して遅刻していたとしても、今回もそうであるかどうかはわかりません。

 「断定」とは、物事にはっきりとした判断をくだすことです。これは、事実ではなく、自分の判断です。場合によっては、「決めつけている」印象があります。「A君は仕事が遅い」これは事実ではなく、断定です。事実を表現するのであれば、「A君は~の仕事に~時間かかった。」とします。「この車は安かった。」これも断定ですね。高い、安いは人によって判断が分かれます。事実は「この車は~万円だった。」ですね。

 「含ませ」とは? 辞書にはないですね。「含め煮のこと」などと書かれています。ここでいう「含ませ」は、好悪の感情など本来の意味にない意味を「含ませる」ということです。同じ事実を伝える場合でも、言い方によって印象が変わります。

「彼は背がすらっとしていて、目がぱっちりです」
「あいつはのっぽで、ぎょろ目だよ!」
 同じことを言っていますが、聴き手の印象は異なりますね。

 以上、しっかり準備をし、効果的な報告を心がけてください。

(4)具体的な報告のしかた

 しっかり準備をしたら、相応の結果を出さなければなりません。正確に、簡潔に、タイミングよく、効果的に報告するために次の点を守りましょう。

① 予告する
 突然話しかけないことです。「今よろしいでしょうか?」と、まずは相手が聴ける状態かを確認します。そして、何についての報告なのか、タイトル、概要を予告します。加えて、報告の数、必要な時間を伝え、相手に聴く準備をさせます。

 「失礼します。営業報告が3点あります。A社、B社、C社です。10分ほどお時間いただきたいのですが、今よろしいでしょうか?」このようにするとよいですね。

② 報告点を先に言う
 「報告点」とは、「相手が知りたがっていること」「自分が知らせたいこと」の要点です。一般に人は一生懸命がんばったその過程を話したいものです。しかし、聴き手は結論を気にします。「お客さんに提案したのですが、なかなか評価してもらえず、苦労しました。話を聴いたところ、お客さんは~を気にしていることがわかりました。そこで。。。。。」結論がなかなか出てこないと、聴き手は不安になり、イライラするものです。ですから、「相手が知りたがっている」と思われることを先に伝える意識を持つことが大切です。「お客さんは、こちらの提案を採用してくださるとのことです。」報告の場合は、「結論が先」ですね。

③ 経過や理由は後で話す
 報告点を話した後に、「実は、最初の提案はなかなか受け入れてもらえませんでした。いろいろお話をお聴きして、~」などと、経過や結論に至った理由を話すと、報告を受ける側はその話を受けとめてよく聴くことができます。

④ 自分の考えは断って話す
 報告は、「事実を正しく伝える」でしたね。しかし、事実ばかりを伝えていると、時には「君の考えはないのか?」と指摘されかねません。かといって、事実と自分の考えをわけずに話すと、誤解させたり、混乱を招くことになりかねません。実務、実践の場は難しいですね。ですから、自分の考えがある場合は、一通りの報告の後に、「これは私の考えですが、。。。」と断って話すとよいでしょう。

⑤ 必要の法則を守る
 効果的に報告をするために、「必要の法則」を必ず守るようにしましょう。必要の法則とは、「必要な時に」「必要なことを」「必要な人に」「必要なだけ」「必要な場で」「必要な方法で」話すことです。

 「必要な時に」
 問題が生じたとき、大事なことはすぐに。不要不急な事柄は適切なタイミングでということです。

 「必要なことを」
 少なくとも報告点を押さえましょう。相手が知りたがっていること。自分が知らせたいこと。5W3H(いつ、誰が、どこで、何を、なぜ、どのように、どのくらい)を意識してください。

 「必要な人に」
 まず誰に報告すべきか、よく考えましょう。報告の順番を間違えると、問題がこじれたり、人間関係がぎくしゃくしたりします。特に上司や先輩に「俺は聴いてないぞ!」と言われないようにすることが大切です。

 「必要なだけ」
 肝心なことが落ちないように、場合によってはあらかじめメモをしてから報告に臨むとよいですね。一方で、誤解を招かないように、余計なことは言わないよう心がけてください。

 「必要な場で」
 報告する場も考えましょう。周囲に聞かれてはいけないことがらなど注意が必要です。

 「必要な方法で」
 なんでもかんでもメールで報告。なんでもかんでも電話で報告していませんか?緊急度、重要度、内容に応じて、直接会って報告するのか、電話でよいのか、メールでよいのか、考えてください。場合によっては、会って報告した上で、忘れられないようにメールを入れておく。電話でタイムリーに報告した上で、念のためメールも入れておく。こうした配慮が必要です。効果をあげるための具体的な報告のしかたを、ぜひ実践なさってください。

(5)報告を正しく受ける

 話は共同作業です。報告もそうです。どんなに効果的に報告しても、聴く側、つまり報告を受ける側が適切に受け止めないとうまくいきません。

 まずは報告を正しく受け取る努力が大切です。そのためには、次の点を意識しましょう。

① 先入観を交えずに最後まで傾聴
 報告を最後まで聴かずに早合点してしまった。「わかったわかった」と遮ってしまった。途中で「そんなはずないだろ!」と口をはさんでしまった。こうした経験はありませんか。話は最後まで聴かなければわかりません。途中で口をはさんでは、肝心なことが聴けずに終わってしまうかもしれません。途中で話を決めつけずに最後まで聴くことが大切です。しかも「傾聴」、相手が話しやすいように、積極的に相手の話を引き出すように聴くのでしたね。

② 要点を押さえ、結論をつかむ努力
 要点は5W3Hでしたね。できればメモを取りながら聴くとよいですね。そして、「結論は何か」をつかむよう努力します。

③ 質問、確認、念押し
 5W3Hで足りないことがあれば、質問して補います。誤解しないよう事実関係を確認し、念押しする慎重さが必要です。理解したことを自分のことばで伝え確認するとよいでしょう。相手のことばだけ聴いて「わかった」では、本当にわかったかどうか怪しいですよ。

④ ねぎらいのことば
 最後に、「良く報告してくれた」「ありがとう」「ご苦労さん」などと一声かける配慮を忘れないでください。これが確実に次につながるのです。

 そして、報告を受ける立場であれば、日頃から風通しの良い職場づくりを心がけましょう。

 私どもの話力講座を受講されたAさんが「報告とその受け方」の講義を聴いた後に、次のような感想をお話しくださいました。

 「私は某自治体の職員です。課長試験に合格し、来年の異動で課長職につきます。今の職場の課長は、いつも腕を組んで、ものすごい形相で席についています。ぜったい俺のところに来るなと言わんばかりです。報告の講義を受けて、自分のためにも、職場のためにも、報告を受けることの大切さを学びました。私はいつでも来てくださいと、ウェルカムの気持ちで臨もうと思います。」

 その通りですね。報告する相手への気配りを忘れないでください。そのためのポイントを3つあげておきます。

・日頃の言動に注意
 日頃から親しまれる、感じの良い言動を心がけましょう

・報告しやすい雰囲気作り
 先ほどのAさんの「ウェルカムの気持ち」が大切ですね。日頃から周囲に声をかけて話しやすい雰囲気を築きましょう。

・悪い報告の時の言動に注意
 悪い報告の時ほど要注意です。うっかり感情的になってしまったり、頭ごなしにしかりつけてしまいますと、後々までマイナスの影響が残ります。そして、周囲も見ています。耳をそばだてているかもしれません。職場全体にマイナスの影響が及ぶことになるかもしれません。悪い報告の時こそ言動には十分注意が必要です。悩ましい話であれば、周囲に聴かれない適切な場所に移動したほうが無難です。

 初代の内閣安全保障室長を務めた佐々淳行(1930~2018)さんにお目にかかったとき、直接お聴きした話です。安全保障室長時代の上司は中曽根内閣の官房長官として辣腕を振るい、カミソリ後藤田との異名をとった後藤田正晴(1914~2005)さんでした。佐々さんは「報告」について、後藤田さんから言われたことを話してくださいました。

 「聴きたくもない事実を報告せよ」悪い報告はすぐにするようにということですね。

 「良い報告は疑え、悪い報告は信じよ」私たちはどちらかというと「よい報告」を信じてしまいがちです。一方で、「悪い報告」は「そんなはずないじゃないか?」などと信じない傾向があるのではないでしょうか。それをたしなめたことばですね。

 「悪い報告をした部下をほめよ。しなかった部下を罰せよ」悪い報告を聴くと、カッとなって叱りつけてしまいがちです。あるいは愚痴やぼやきのひとこと、ふたこと、言ってしまいませんか。そうすると急いで対策を取らなければならないような悪い報告が徐々に上がってこなくなりかねません。風通しが悪くなりますね。なかなかできることではないですが、悪い報告をしてきたら、「よくすぐに話してくれた。よし、対策をたてようじゃないか!」と冷静に言える耐力をつけなければなりません。

 皆さんも報告を受けるときに意識なさってください。

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