ビジネスコミュニケーション「仕事がはかどる話し方のコツ」
◆よりよく生きるためのツール ~ 究極のコミュニケーション能力を磨く ~
改訂第2版 「16.あがりを克服せよ」
話力総合研究所 理事長
講演中
(1)あがりながら話せ!
おおぜいの前で話す時、あがりますか?あがるとどうなりますか?ドキドキする。手足が震える。声が震える。早口になる。スムーズに話せない。頭の中が真っ白になる。まだまだいろいろありますか?あがりたくないですね。あがらないで話したいですね。あがらなくなる方法を知りたいですね。
残念ながら、あがらなくなる方法はありません。なぜなら、あがるのが普通だからです。感性の鋭い人、まじめな人ほどあがります。鈍い人、図々しい人、いい加減な人。あるいは、おおぜいの前で場数を踏んでいて慣れている人は、あまりあがらないでしょう、なかには、自分であがっていることに気づかない人もいるかもしれません。しかし、少なからずあがっているはずです。まったくあがらない人、あがったことがない人は、ちょっと問題です。なぜなら、何も感じないということだからです。効果的に話すには、ある種の緊張感は必要です。大切な場だと思うからこそあがるのですよね。役割を果たさなくてはと思うからあがるのです。あがること自体が悪いわけではありません。
時々、あがらない方法をまことしやかに話す話し方の講師を見かけます。「聴衆をかぼちゃだと思いなさい」「聴衆をやかんだと思いなさい」こういう話や講師は要注意です。なぜなら、本当に聴き手の顔をカボチャや、やかんにしたら、恐ろしくて話せないですよ。聴衆全員がマスクをしているだけでも話しにくいのです。話の効果をあげるには聴き手に対応して話すのでしたね。ですから、話に対する聴き手の反応がわからずに話すのはたいへん難しいです。聴き手に寄り添って話さなければいけないのに、聴き手を無視するようなあがり対策は意味がありません。そうしたことに気づいていない講師の指導を受けるのは気の毒というほかありません。
「あがらないで話したい」と考えるのは、厳しいことを言うようですが、「甘えています」。あがりながら話すのですよ。あがりながらでも話の目的を達成し、効果をあげるという覚悟が大切です。これだけは絶対わかってほしいと思ったら、話せるではないですか!とはいえ、最初にお話ししたように、あがるといろいろな話の障害が生じます。できれば、あがりを軽くしたい。あがっても、すぐに下げられればよいですね。あがりの対策を講じるには、一体どうしてあがるのか?あがる原因を理解し、その原因を解決していくことが肝要です。
あがりの主な原因には、内容的な原因、心理的・生理的な原因、方法的な原因があります。
(2)内容力は「あがり」のバロメータ
突然指名され、話すべき内容を持っていない時、あがりますね。何を話そうかと思いながら、しばらくドキドキしませんか。あるいは、話す内容はあるのですが、その内容に自信を持てない時、あがりますね。また、こういう場、多くの聴衆に何を話したらよいか?とまどうこともありますね。こんなこと話してよいか?笑われないか。くだらないと思われないか、などと心配になることもあります。
そして、準備が十分でないとあがりますね。数日前からスピーチを依頼された。「まだ時間がある。」2日前になった。「そろそろ準備しないとまずいな。」明日スピーチだ。「今日中に準備しよう」当日になった。「気合いだ。何とかなるだろう!」。。。なんともなりません。準備ができていない。準備が不十分ということを自分自身が一番よく知っているからあがるのです。
皆さん、少なからずこうした経験があるのではないでしょうか?あがりの程度は、内容力や、準備の度合いによるのです。つまり「内容力はあがりのバロメータ」です。十分に準備し、密度の濃い内容を持っていれば、あがりは軽くなります。一方、内容が薄っぺらでは、あがる度合いも高まります。
ですから、この場合のあがり対策は、徹底的に準備することです。これだけ準備したのだからと、自信が持てるまで準備することです。話すことばを暗記するだけでは、まだまだ足りません。暗記していたことばが抜けてしまうと、ことばに詰まってしまいます。頭の中が真っ白になってしまいかねません。話の内容を鮮明に映像化できるまで、準備してください。練習してください。
日頃から話の材料を仕入れる習慣をつけましょう。第1章の『(7)いつでも、どこでも、誰にでも話せる「内容力を高める」には?』をもう一度読んでください。
それから予見して準備することです。ひとこと挨拶をと言われるかもしれない。自己紹介があるかもしれない。会社の紹介を依頼されるかもしれない。技術的な解説を求められるかもしれない。前もってそのように考えて準備しておくことが大切です。
そして、スピーチ上達法は「話した後にまとめる」でしたね。「持ち歌」ならぬ「持ち話」を増やしていきましょう。いざというときに、持ち話を組み合わせて話すことができるようになります。
徹底的に準備をし、話す内容について絶対の自信を持つこと。ぜひ、心がけてください。
(3)心理的・生理的な障害の原因をつかめ
内容的な原因であがるので、徹底的に準備し、内容に自信を持ってくださいとお話ししました。しかし、残念ながら、場合によっては準備してもあがるのです。なかには、徹底的に準備したことにより、よけいにあがるという「変わった」人!?もいます。
ある大企業の首都圏営業部長だった知人は、「準備するとあがるから、ぶっつけ本番!」などとうそぶいていました。おそらく、相当の場数をこなして、経験を蓄積したため、いつでも、どこでも、その場の聴衆や、目的、役割に対応して話せるようになったのでしょう。準備をせずに「ぶっつけ本番」で話しているのだからという心理的な気楽さがあるのかもしれません。そのため、気持ちに余裕ができ、これまで蓄積してきた経験を十分に生かせるのでしょう。
一方で、準備をしてしまうと、「これだけ準備をしたのだから、いつも以上に良い話をしなくては」「聴衆を納得させなくては」などと余計なことを考えてしまい、それが心理的なプレッシャーとなって、思うようにいかないのかもしれません。
しかし、準備をしなければ、内容的には薄っぺらな物足りないものになりかねません。徹底的に準備をし、心理的、生理的なあがりの原因を克服して話すことを本来はめざすべきでしょう。
心理的。生理的なあがりの原因として、主に次のようなものがあります。
① 付属的な期待を持つ
例えば先にお話ししたように、準備をしたのだからいつも以上の話をしなければ。あるいは、さすがと思われたい、うまいと言われたいなどと、本来の話の目的に直接関係ないことを期待することがあります。そうすると、それがプレッシャーになり、心理的な障害を生じさせかねません。
② ある種の劣等感に悩まされる
この件は自分が一番よく知っていると思えば話せるはずです。しかし、専門家が大勢いるところで話すとなると、普段通りにはいかないかもしれません。新人や若手の前では滔々と話せても、経営幹部の前ではなかなかそうはいかないのではないですか?
③ 話す気(熱意)がない
「このことについて話そう」「これだけはわかってもらおう」などと話すつもりでいれば、それなりに話せるはずです。話す覚悟をしているからですね。
一方で突然、「ひとこと挨拶を」「お一人お一人自己紹介を」などと言われると、急にドキドキしますね。話すつもりがなかったのに、話すことを強制されるからです。話そうとする熱意がない、話す覚悟が足りないとあがることになりかねません。
④ 忘れることを恐れている
披露宴や何らかのパーティー、大規模な会合などで開会前に見かけませんか?トイレの鏡の前でぶつぶつ言っている人。ポケットからメモ用紙を出したり、しまったりしながら、何度も目を通している人。席につき、下を向いて目をつぶり、何やら考えている人。気の毒ですね。忘れないように必死なのでしょうか。
また、スピーチの失敗例として印象的な事例があります。披露宴の席上です。
「本日はおめでとうございます。新郎新婦に私の好きなことばを手向けたい。私の好きなことばは。。。え~っと。。。 ちょっと待ってください。」
大汗を書きながら、上着のポケットに手を入れ、メモを取り出しています。私は、披露宴に出席する機会が多くあったからかもしれませんが、このような光景を数回目撃しています。好きなことばはどんなにあがっても忘れないですね。どこかで聴きかじったよさそうなことばを十分消化せずに話そうとするから、あがってしまうのです。もし、しっかり話したいのであれば、十分に消化し、本当に「好きなことば」にしてから話さないと、がっかりする結果になりかねません。
(4)心理的・生理的な障害を除け
これらの障害を克服するためには、次のことを意識なさってください。
① 目標をおき、話す意欲を掻き立てる
まずは、目標を決めることです。小さな目標で構いません。おじぎをしっかりしよう。第一声、あいさつを大きな声で、はっきり言おう。にこやかに話そう。とにかくこれだけは言おう。そういう目標を設定し、意欲を掻き立てることで、気持ちが落ち着くはずです。
② 素直に話す
背伸びをしない、格好をつけないことが大切です。自分以上は出せないのです。自分以上を出そうとすると破綻します。「ない袖は振れない」と言いますね。今の自分のことばづかい。今持っている内容。自分の性格、気質。よそ行きにせず、普段着の今の実力で勝負する覚悟が必要です。
③ 知らないことを言わない
十分に消化していないことを話そうとすると破綻します。話したいならしっかり自分のものにしてください。
④ 話すことと直接関係しない心理的、生理的な障害を取り除いておく
トイレに行きたいのを我慢しながらでは、話しにくいです。時間ギリギリに会場に入って、息を切らして話すのもかなりつらいです。話す前に何かを食べると、話す時に緊張のため胃が収縮しますから、食べ物が上がってきそうな感覚に悩まされることもあります。体調がよくないと、十分な実力を発揮できないかもしれません。こうした、心理的、生理的な数々の障害を事前に取り除いておくことが肝要です。
(5)話し方の問題を知れ
あがりの原因と対策の最後は、「方法的な原因」です。話し方が話の障害になる場合ですね。多くの人があがるのは話し方のせいだと思っているようです。しかし、これまでお話してきましたように、話す内容を持っているかどうか、内容的な原因。余計なことを考えずに本来の目的に集中しているかどうか、心理的・生理的な原因。どれか一つの原因ということではなく、話し手の性質、話す内容、話す場や聴衆などによって、これらの原因がそれぞれの軽重でからみあって障害となるのです。
方法的な原因としては、次のようなものがあげられます。
① 自分の話し方に自信がない
自分は話が苦手だ。どう話してよいかわからない。話し方に自信を持てないとあがりますね。
② 効果的な方法を持っていない
例えば、自己紹介でも個性的かつ独創的な自己紹介の内容をいくつか持っていれば、比較的楽に話せますね。
③ 対話に慣れていない。
あがるのはおおぜいの前ばかりではありません。1対1や少人数で話す時にもあがります。特に最近は対面で話すのを苦手にしている方が少なくないのではないでしょうか。
④ 過去の失敗にこだわっている
以前の失敗がトラウマとなっている場合ですね。また、同じ失敗を繰り返してしまわないかという不安感からあがるのですね。
(6)場数を踏み、場慣れせよ ~
こうしたことが原因であがる場合は、次のことを意識して、努力するとよいでしょう。
① 場数を踏み、場慣れする
「下手な話は話して直せ」ですね。数をこなして経験を積む。失敗しながら改善し、次に生かしていく。しだいに落ち着いて話せるようになります。自分なりのコツをつかめるようになります。ただし、ひとりよがりで変な癖をつけないようにしてください。これまでお話してきました話力の原則を守って磨いていきましょう。
② よい話し手を観察してまねる
この人はおおぜいの前で堂々と話をする。あの人は内容的に興味深く聴かせる話をする。皆さんの周囲に良い話し手はいませんか?そういう人をお手本にするのですね。ただ漠然と話を聴いていては気づけません。「自分が話すとしたら。。。」と問題意識をもって観察することです。そうすると気づくことがいろいろあるでしょう。『「学ぶ」は、「まねぶ」すなわち「まねる」から』です。できることから取り入れてみましょう。
③ 小さな成功体験を蓄積する。
失敗を繰り返していると、自信をなくします。やる気がなくなります。逃げたくなります。そうですよね。逆に、うまくいけば自信になるでしょう。ですから、失敗しないよう作戦をたてるのです。「身の程を知る」ことも大切です。自分があがりやすいと思ったら、長々と話す準備をしても効果的ではありません。どんなに準備しても途中で破綻してしまいかねないでしょう。今の自分は30秒なら話せる。1分までならがんばれる。そうだとすれば、その時間の中で思いを伝える努力をすることが肝心です。そして、「話せた」「うまくいった」という成功体験を意識的に作るのです。これを繰り返していくうちに、徐々に長く話せるようになるはずです。「小さな成功体験を蓄積する」コツコツ努力を継続してください。
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