第 12 回 『初心忘るべからず』
世阿弥が説く「初心」とは一つではありません。三つある、としているのです。
『わたくしどもの芸に、あらゆる功徳をひとまとめにした金言がある。それは、「初心忘るべからず」というのである。これは三箇条の口伝がある。批判基準となる初心を忘れてはならぬ。自分のそれぞれの時期における初心を忘れててはならぬ。老後の初心を忘れてはならぬ。この三句は、よくよく口伝を受けるべきものである。』
「人生にはいくつか初心がある」と言っているのです。若い時の初心、人生の折々での初心、老後の初心。とくに話力の仲間には「老後の初心」についての解釈をお伝えいたします。
『「老後の初心を忘れてはならぬ」とは、人の命には限りがあるけれど、能には終わるところがない。各時期に相応した能を、ひとつひとつ習得してゆき、老後になってはその年齢に似つかわしい芸をきわめるということが「老後の初心」なのである。ほかに方法はないといわれるほど大事な芸を、老後になって初めてやるのは、これこそ「初心」でなくて何であろう。』
老後の初心、これを持ち続けることは容易ではありませんが、話力を学ぶ者として気構えだけは持続して持っていたいところです。今回で「話力に生かそう風姿花伝」は最終回です。一年間お読み頂きましてありがとうございました。感謝申し上げます。引用はタチバナ教養文庫「風姿花伝・花鏡」に拠りました。