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理事 田村 聡 の「講義力をともに高めよう」4

第 4 回 『 話力と人間関係』

 常設講座の場合、この項目まで講義を進めてから休憩をとる場合もあれば、前の項目が終わったところで一旦休憩をとることもあります。その時の人数や受講生の様子など、聴衆分析をしたうえで講師が判断します。若干疲れが出やすい時間でもあるので、できる限りポイントをおさえて短時間で講義できるとよいでしょう。

「話力と人間関係との関連」

 話力と人間関係は密接な関連があります。それを短いことばで端的にあらわしたものが、テキストに書かれている3項目(①話力は心的変化を通して人間関係を変える、②話の効果は人間関係によって変わる、③人間関係が話し方、聴き方を変える)です。心的変化は「心の状態の変化」のことです。このように耳慣れないことばは、ひとこと解説を加えると受講生にとっては親切な対応になります。

 さて、この3項目は特段難しいことを述べているわけではありません。日常生活で誰もが体験することを例に考えてみましょう。「今まで苦手だなと感じていた人が優しいことばをかけてくれた時に、その人に対する苦手意識が薄れる(①)。すると、これまではその人の話に反発を抱くことが多かったのだが、納得できることが増えてきた(②)。そして、こちらの話し方も好意的なものになり、その人の話に耳を傾けられるようになった(③)」いかがでしょうか。項目に照らし合わせて考えてみてください。こういうことってありますよね。これを理論化したものがテキストの3項目なのです。よくあることなので「なーんだ」と思われがちですが、ここに気づくことが話力学徒として大切です。身近な例はたくさんあります。逆に、相手にネガティブな気持ちを抱かせてしまうと、人間関係が悪化しかねません。すると、こちらの話にも耳を傾けてもらえなくなり、素っ気ない対応をされてしまう…という負のサイクルにはまってしまいます。そうならないために「人間関係をつくる努力をしましょう」とひとこと述べて、次の項目に入っていきます。項目と項目をつなぎます。

「人間関係をつくる」

 この項目でポイントとなるのは「あいさつ」と「返事」です。具体的に考えてみましょう。あいさつについて、永崎一則先生は「相察」ということばを使われました。これは「相互に察する」という意味です。お互い、思いやりを持って察し合うところにあいさつの重要性を強調されていたのでしょう。テキストにも書かれていることばですので、講義の中でも板書してふれておきたいところです。あいさつのポイントは「先に、工夫して、指名して、相互に、つづけて」です。“積極的に”あいさつをするためにも、これらを心がけたいものです。そして、日々実践することが好意的な人間関係の土台にもなるでしょう。人間関係をつくるきっかけがあいさつであることを講義では伝えます。そして、この講義では講師自らのあいさつをふり返る機会にもなります。うまくいった例もあれば、うまくいかなかった例もあるはずです。そこが人間関係の難しさです。私は、苦手な相手であっても必要最低限のあいさつをすることが必要であると考えています。返事がなく一方通行になってしまうかも知れません。しかし、あいさつをしなくなったらそこで人間関係が切れてしまうのです。“無視しないための努力”も、あいさつの意義ではないでしょうか。

 そして、声をかけられたときには「返事」をしっかりと行いたいものです。これは、相手に理解と反応を示す行為です。具体的なポイントは「すぐに、相手を見て、明るく、素直に」の4つです。これは“感じよく”返事をしましょう、ということです。後で学ぶ「表現の原則」にも関連します。目と声を使って、声をかけてきた相手にプラスの心的変化が起こるような返事を心がけます。実習で指名した時に気持ちの良い返事をしてくれた受講生の例などを出すと、その後の実習で同じように実践してもらえるかも知れません。

 さあ、この講義の後は最初の実習「自己紹介」が控えています。受講生にとっては緊張が高まる時間が近づきます。実習の予告をしつつも、リラックスして取り組めるようなひとことを工夫すると、肩の力が抜けていくでしょう。それを示すのも講師の心格力です。

 次回は「話の成立条件と効果の決定権」です。

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