第 5 回 『 話の成立条件と効果の決定権』
最初の実習「自己紹介」が終わり、受講生の方々はホッとしたところでしょう。午前中の最後の項目が「話の成立条件と効果の決定権」です。お昼休みまで、もうひと踏ん張りです。ここでは大切なキーワードがいくつか出てきますので、それらをしっかり定義づけることが講義における留意点です。
講義の導入部分では「伝えたつもりなのに、相手の耳に入っていなかった例」を出すと効果的です。母親が子どもに「宿題やりなさいよ」と何度声をかけても、子どもは「うん、うん」というだけでゲームに熱中している場面などは典型的な例ですね。なぜそうなったのかを分析してみると「相手は生返事しているだけできちんと聴いていなかった」という結論に達します。つまり、話が成立していなかったのです。そこで、「まず考えておきたいのは、目の前にいる相手を聴き手にすることです」と予告をして最初の項目に入ります。
(1) 相手を聴き手にする
相手と聴き手との相違点を明確にしましょう。相手というのは、目の前にいる「存在」です。そして、聴き手は「存在」だけではなく「傾聴」する姿勢を持った人のことです。そこで、話し手の最初の努力は相手を聴き手にすることです。どのようにしたら聴き手になってもらえるか、その方法はいろいろとあるでしょう。声のボリュームを上げて注目させる、逆に小さくして聞き耳を立ててもらう、とっておきの話をする等、ご自身の実践例を出せるといいですね。相手の名前を呼ぶのも効果的です。他でもない自分に話しかけてくれたと思えば、話に注目する可能性が高まります。このように、相手が聴き手になれば一応話は成立します。しかし難しいのは、それだけで話の効果があがるとは限らないということです。「なぜならば」と前置きして次の項目につなげましょう。
(2) 話の効果は聴き手が決める
話し手がどんなに良い話だと思っていても、良いかどうかを判断するのは聴き手です。話し手の価値判断を押しつけても、かえって逆効果になることすらあります。そこで、対話において話し手と聴き手がそれぞれどのような権限を持っているのかについて講義を進めます。
① 発言権と決定権
話し手は自由な発言権(何を話すのも自由である)を持っています。そして、聴き手は話の決定権(話の効果を判断する)を握っています。この決定権によって、話し手はさまざまな制約を受けています。つまり「自分の話がどう聴かれるのか」という視点を持たないで話すと、効果的な話にはならないということです。これが受講生にとっては新鮮な驚きにつながることがあります。学び始めは「どう話すか」に意識が向きやすいからです。
テキストに出ている図は、講義の中ではぜひとも板書しておきたいポイントです。板書しながら講義すると、受講生のみならず講師の頭の中にもしっかりと定着します。このとき、「条件」については具体例を出しましょう。「忙しい上司は『手短に話せ』という条件を出しているので、それに叶うように結論だけ伝える」など1~2つ例を出せると図への理解が深まります。難しいのは、聴き手の条件が一定ではなく、話の中で常に流動、変化していくことです。そこで、話し手が意識したいのが次の項目です。
② 変化への対応
政治家(話し手)の失言が後を絶ちません。ひとたび不適切な発言があると、世間(聴き手)が黙っていません。「取り消せ」「謝罪しろ」などと厳しい声(条件)が寄せられます。そして、最後には公の場で謝罪することになってしまいます。失言がなければ、このような新しい条件は発生しないでしょう。これも「変化への対応」の一例です。対話の中で聴き手の心的変化が起これば、それに適切に対応することが求められます。それがスムーズな対話にもなるのです。
また、外的条件の変化も含まれます。たとえば、誰かの噂話をしていたら当人がやってきたので、その話をストップしたというのも「変化への対応」といえるでしょう。
ここから後の(3)と(4)については、あまり時間をかける必要はないでしょう。
(3) 効果をあげるための条件を考える
主に非言語の条件を取り上げています。次の「対話における態度」の項目で態度について学ぶので、深入りせずに留めます。簡単にふれて「このような条件も、話の効果に影響します」程度でよいと思います。
(4) 聴き手は聴く努力をする
「話し上手=話させ上手」であることを伝え、傾聴の大切さを強調します。積極的傾聴です。項目全体の中で、どこに比重を置くのかを考えて構成すると、講義にメリハリがつきます。
次回は「対話における態度」について学びましょう。