ビジネスコミュニケーション「仕事がはかどる話し方のコツ」
◆よりよく生きるためのツール ~ 究極のコミュニケーション能力を磨く ~
改訂第2版
「18.聴き手の心の法則に従って話せ」
話力総合研究所 理事長
~ 聴衆分析法 ~
(1)聴衆の本質を知ろう!
スピーチを依頼されたとき、皆さんはどうしますか? 「何、話そうか!?」「どう話そうか!?」考えますね。これでよいですか?そうですね。6章「話は共同作業」の(2)「話の効果は誰が決める」を思い出してください。話の効果の決定権は聴き手にあるのです。一方的な話、独りよがりの話にならないようにしなければなりません。話の効果をあげるには、「聴き手の心の法則に従って話す」でした。しかし、聴き手の心の法則などわかるものではありません。聴き手に対応するのですら、相手が一人でも苦労します。おおぜいを前にどうしたらよいのでしょうか?
まずは、聴き手の平均的な性質をとらえて、それに対応して話す努力をすることです。聴き手を知る行為を「聴衆分析」と言います。人が聴く立場の時、一般的には次のような性質を持っています。「聴衆の本質」です。スピーチを頼まれて、準備をするときに、どのような聴衆が集うのかわかっていればよいですね。しかし、わからない場合もあります。その時はまず、「聴衆の本質」に従って準備をするとよいでしょう。
① 聴衆は親近性を持ちやすい
一般に聴衆は話し手に対して、どちらかと言えば好意的な興味を持つものです。「どんな人なのだろう」「どんな話をするのだろう」。話を聴きに集まった聴衆であればなおさらです。親近感を持とうとする方向に軸足は傾いているはずです。
ですから、聴衆のこうした気持ちに逆らわないことが大切です。聴き手の「親近性」を生かして、それを増幅させ、好意的に聴いてもらう。親しみを感じながら話を聴いてもらえれば、話の効果が高まります。
注意すべきことは、話の冒頭に余計なことを言わないということです。話し出す時に、「ちょっとあがってしまって~」「何も考えていなくて~」「準備が十分ではないですが~」などと余計なことを言う人が少なくありません。何も考えていない話を聴きたいと思いますか?準備が十分でない話を聴く気になりますか?これらは、話の効果にマイナスの影響があっても、プラスには働きません。ぐっとこらえて、本来の話に入るべきなのです。どうしても言いたければ、話の終わりにしましょう。「ちょっとあがってしまって、お聴きになりにくい点があったかと思いますが、最後まで熱心にお聴きくださりありがとうございました。」などとすれば、話がしまります。話の効果にマイナスになることもありません。
それから、ことばづかいや表情、態度・服装に気をつけることです。場や聴衆にふさわしいことばづかい、表情、態度・服装を心がけてください。
要はせっかく親近性を持ちやすい聴衆なのに、それに逆らって、聴衆を不愉快にさせたり、反発させないよう注意しましょう。そして、親しみの気持ちを話が終わるまで継続してもらえるよう常に意識することです。そうすれば、「今日の話はよかった」「~さんのあいさつは素敵だった」などと多くの聴衆の評価を得ることができるでしょう。
② 聴衆は飽きやすい
聴衆は親近性を持ちやすいのですが、残念ながら「飽きやすい」のです。集中して聴くことは重労働です。疲れます。疲れると眠くなります。話から離れてしまいます。また、集中には限度があります。長時間集中できるものではありません。一般には15分程度だとも言われています。
集中が途切れると、気が散ります。話す速度と聴く速度を比べると、聴く速度の方が話す速度より2、3倍速いと言われています。聴くことは、どちらかというと精神運動です。話す方は、筋肉を動かして声帯を震わして音を出すのですから、どちらかというと筋肉運動ですね。
精神運動の方が筋肉運動よりはるかに速いです。皆さん、話しながら他のことを考えることできますね。余裕があるのです。ですから、聴いているときにも他のことを考えることができます。そうすると、他のことが思考の中心となり、話から離れてしまいかねません。聴き手は話に集中するために、メモを取るとよいですね。聴く行為を精神運動ではなく、手を動かす筋肉運動に変えてしまうと、それなりに集中を持続できます。
話す側はできるだけ具体的にわかりやすく話すことです。抽象的な話だと眠くなりますね。できるだけ具体例を加えて、身近な話題にすることが大切です。
それから、話に変化をつけることです。内容の変化をつける。もう一度、17章「話の構成法」をふりかえってください。そして、表現に変化をつけます。表現が平坦な一本調子では眠くなります。話の内容に合わせて、強弱、リズムを変えます。気持ちをことばに載せます。感情移入と言います。その時の気持ちになってことばを出します。その際、表情も話の内容に合わせると、ことばに気持ちが乗りますね。
また、聴衆に語りかけたり、質問を工夫するとよいですね。話力講座の受講生のお話です。その方は専門学校の講師をしている30歳前後の方でした。「自分の話に自信が持てない。授業で生徒たちが寝てしまう。」その方にスピーチ実習をしてもらいました。まとまった、わかりやすい良い話をします。特に大きな問題はなさそうです。しかし、「生徒が寝てしまう」。。。
90分も一方的に話されたら、どんなに良い話でも聴き手は疲れてしまいます。話の途中途中に聴き手を退屈させない工夫が必要なのです。聴き手を見ていて、ちょっと疲れてきたかなと思ったら、質問を投げかけてみるとよいでしょう。ただし、答えやすい質問をしてください。また、答えられないようであれば、聴き手の自尊心を傷つけない配慮も必要です。
その他にも、スライドを使ったり、ビデオを見せたり、実物を見せるなど、聴き手を飽きさせない工夫をしてください。ただし、あくまで主体は話すことです。話の目的を忘れずに、目的からそれないよう意識なさってください。
③ 聴衆は環境に支配されやすい
話すこと以外の理由で聴けなくなることがあります。騒音、会場の温度、湿度、照明。異臭がする。出入口が視界に入り、始終出入りがある。時計が視界に入り気になる。気になる人がいる。気になることがある。等々いろいろです。
話す前にできるだけ話の効果にマイナスになりそうなことがらを予見し、取り除いておくことが必要です。効果的な場づくりをしっかりしましょう。また、例えば救急車のサイレン音、ヘリコプターの音などであれば、通り過ぎるのを待てますね。その際は少し待ってみて、音がしなくなってから話しはじめる余裕が必要です。あとは、その都度臨機応変に対応することですね。
④ 聴衆は気持ちが変わりやすい
聴衆の好意的な気持ちを持続させるのは、相当たいへんなことだと意識してください。不用意な一言で気持ちが離れます。ある芸能人Aさんの熱烈なファンだったXさんの話です。後援会にも入り、日本全国のコンサートやイベントに必ず参加していました。それが、ある時を境にぱったり離れてしまったのです。警察官の不祥事が報道された直後のコンサートで、Aさんが話しました。「最近の警察官は皆だめだ!。。。。」実はXさんの父親は警察官だったのです。「父は誠実にまじめに仕事をしていた」その思いから、Aさんの話を受けとめられませんでした。Aさんへの思いもさめてしまったとのことです。
話し手は聴衆の反応を常に意識します。そして、話やことばに行き過ぎがあったと思ったら、それをもとに戻す気配りが必要です。「毒消し」といいます。「最近の若者は。。。ここにいらっしゃる方はそんなことないでしょうが。。。」「最近の警察官は。。。まあ、みんながみんなそうだというわけではないですが。。。」などと行き過ぎたことばを和らげます。
その他、ことばづかいや態度にも気を配り、聴き手の気持ちを離さないようになさってください。
(2)その場の聴衆(聴き手)を知れ!
「話の効果は聴き手が決める」のでしたね。話をする相手が1人でも、2人でも、あるいはおおぜいでも、その場の聴き手に対応して話さなければ効果的ではありません。ただ単に上手に話して、自己満足で終わってもむなしいだけです。話の目的を達成して、結果を出そうと思うなら、効果をあげたいなら、その場の聴き手を十分に把握し、「聴き手の心の法則に従って」話さなければなりません。次の点を心がけてください。
① 聴き手は何を聴きたがっているか
聴き手はどんなことに興味を持っているか。どのようなことに関心があるかをつかんで、それに対応することです。まずは、聴き手が「聴きたいと思っていること」に応えるようにします。聴き手の興味、関心を満たしたうえで、自分が真に伝えたいことを話していく。この順序を誤ると、聴き手の気持ちは話し手から離れてしまいかねません。聴き手をぐっとつかんで、最後まで話を聴かせる努力と工夫が必要です。
具体的には、準備の段階で取材をしておくこと。主催者や関係者、または参加者にまえもって尋ねてみるとよいでしょう。当日は、話しはじめるときに、質問を投げかけて答えてもらったり、反応を見るなどして、聴き手の興味・関心をとらえるようにします。話の途中でも自身と聴き手にずれがないか、確認できるような質問をあらかじめ用意しておくと役に立ちます。
② 聴き手の理解力はどの程度か
いつも同じように話していては、たとえ話し方が上手でも効果的とは言えません。専門家が仲間に話す時と同じことばで一般の聴き手に話しても伝わりにくいですね。逆に、普段一般の人に話しているように専門家相手に話しては、聴き手をがっかりさせることになるかもしれません。聴き手の能力、キャリアを把握することが大切です。
あるいは、その問題についてどこまで知っているか。どの程度の基礎知識があるかを把握して、その条件に合わせて話すと効果的です。事前に取材したり、その場で質問して把握するようにします。
準備の段階で、聴き手の理解力がわからない場合、あるいは会場でもどうもつかみにくい場合は、義務教育レベルで話すように心がけます。元NHKアナウンサーの鈴木健二さん(1929~)。1970年から1980年にかけて教養、娯楽番組の司会などで活躍されました。多くの著書も出されています。たいへんわかりやすくお話しなさっていらっしゃいました。中学校卒業程度の内容を意識されていたと思います。近頃では、ジャーナリストの池上彰さん(1950~)の解説がわかりやすいと評判ですね。やはり、中学生にもわかるように、いろいろ準備し、工夫してお話しなさっています。
③ 聴き手はどのような立場で、どのような意見をもっているか
たとえ同じ話をするにしても、いつも同じように話しては効果的ではありません。相手はどのような立場か?いかなる意見を持っているか?聴き手に応じて、聴いてもらえるように、受け止めてもらえるように、納得してもらえるように工夫して話します。
例えば、夫婦別姓に反対の立場で話をする際に、同じ意見の人の集まりであれば、比較的気を遣わずに話せますね。しかし、異なる意見の聴衆であれば、受け止めてもらえるよう、反発されないように気を配る必要があるのです。原子力発電所の運用についても、話し手と異なる立場の聴き手であれば、話し手は聴き手の立場に寄り添いながら、自身の主張を理解してもらうように細心の注意が必要です。
④ 聴き手にはその他に特筆すべき事柄(属性)があるか
聴き手の性別や年齢。同姓には話せても、異性には気をつけたい話がありますね。また、聴き手の年齢層を把握して話さないと伝わらなかったり、がっかりさせることになりかねません。
その他、職業や宗教。地域性にも配慮が必要です。
例えば野球にまつわる話をする際に、多くの地域では読売ジャイアンツと東京ドームを例にした話で済むかもしれません。しかし、関西では阪神タイガースと甲子園球場を例に話さないと話を聴いてもらえないばかりか、反発されかねません。広島では広島カープと広島球場の方が無難ですね。
鹿児島では西郷さん(西郷隆盛 1828-1877 幕末から明治にかけて活躍し、西南戦争で没した )を批判すると予想もしなかったマイナスの反応に見舞われるかもしれません。福島で山口や鹿児島の話も注意したほうがよさそうです。幕末から明治にかけての会津戦争(戊辰戦争 1868)の古傷に触ることになりかねません。江戸時代の赤穂浪士の討ち入りで知られる敵役の吉良上野介(1641-1703)は物語では悪役が多いです。しかし、領地であった愛知県の旧 吉良町(現・西尾市)では名君として評判だったようです。こうした地域の事情を知らないと、せっかくの良い話も失敗スピーチになりかねません。
「その場の聴衆を知り、聴き手に応じて話す。」 ぜひ、心がけてください。
(3)より効果をあげるために
話の効果をあげるためには、効果の決定権を握っている聴き手への配慮が欠かせません。聴いてもらい、誤解されたり、反発されることなく好意的に受け止めてもらうための心づかいを忘れてはなりません。具体的には次の3つについて特に気を配ってください。
① 場づくり
聴きやすく、話しやすい場づくりが大切です。聴き手と話し手の位置、方向。聴き手同士の配置。会場全体と配置とのバランス。たいへん広い会場の前の方のみに聴衆が集まっていたり、狭い部屋にすし詰め状態だったり。どちらも周囲が気になり、聴くことに集中できません。
聴衆が話の効果にマイナスの影響を与える環境に支配されないよう場づくりを工夫してください。
② 雰囲気作り
気心の知れた人たちの集まりであれば、それほど気を配る必要はないかもしれません。しかし、初対面の人が多いと会場全体の雰囲気はかたくなる傾向にあります。雰囲気がかたいままですと、話しにくいです。また、聴き手も疲れやすいです。まずは、聴き手の気持ちをほぐし、全体の雰囲気をやわらげる努力が必要です。雰囲気は時間によっても変わります。話す前はもちろん、話している間も継続して努力なさってください。
よく、一般公開の講演や講座を担当します。多くの場合、会場に入ったとたん緊張感がピリピリこちらに伝わってきます。こうした時は、開始前に参加された方と雑談をします。何人かとおしゃべりしますと、かなり和らぎます。あるいは、全員に向かって「すごい雰囲気ですね。怖いことないですから、リラックスなさってください」などと一声かけると、笑いが生じ、会場全体の雰囲気が柔らかくなります。
③ 変化への対応
聴き手は「場の環境に支配されやすく、気持ちが変わりやすい」のです。ですから、話し手は話している間中、聴き手と場の変化に気を配らなければなりません。ポイントは「目配り」です。聴き手や会場全体にやさしい視線を投げかけることです。そして、聴き手の状態の変化や会場の変化をとらえ、その変化に対応していくことが大切です。
話すだけで精いっぱいですと、変化に対応できません。十分に準備をし、ゆとりを持つことが前提です。聴き手が疲れてきたなと感じたら、その疲れをいやすユーモアを加えます。聴き手が首をかしげていたら、わからなかったのかと考え、補足説明します。あるいは、「何かわからない点がありましたか?」などと、聴き手に尋ねても良いですね。聴き手が驚いたり、不満に感じているような表情に気づいたら、「皆さんは違うでしょうが。。。」「これは特殊な例ですが。。。」などと毒消し(ことばの行き過ぎをやわらげる表現を加える)を行います。よくわからなければ、聴き手に尋ねたほうが良いです。そのまま不安や疑問に思っていると、あがる原因になりかねません。
常に聴き手や会場の変化を気づかい、より効果的な話を心がけましょう。
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