第5回 「心を十分にはたらかせ、身体を七分に動かせ」
これは「花鏡(かきょう)」にあることばです。心の働きより身の動きを控えて演じることを世阿弥は勧めています。心は全身全力で、しかし動きは七分に留める。原文では「動十分心(どうじゅうぶんしん)、動七分身(どうしちぶんしん)」と書かれています。
スピーチやプレゼンでもこの気持ちを持っていたら如何でしょうか。全身全力でスピーチやプレゼンに取り組む。しかし、少し余力を残しておけば、余裕を持ったものになる、と言いたいのだと思われます。
原文では「心を十分に動かして身を七分に動かせとは、習う所の手を指し、足を動かすこと、師の教えのままに動かして、その分をよくよくし究(きわ)めてのち、指し引く手を、ちちと、心ほどには動かさで、心より内(うち)に控(ひか)ふるなり」
つまり「先生から習ったことを、しっかりと練習をする。しかし、ごくわずかに、気持ちよりも動きを少なめに控える。」ということです。
すべてを語らず、少し控えてみる。聴き手や観客にちょっとした想像力を加えるのも、少し余力や余韻を残すことではないでしょうか。
このことばは、いずれ紹介する「秘すれば花」にもつながる世阿弥の美意識が流れていると思わされます。