第7回 「先聞後見(せんもんごけん)」
『風姿花伝』は能の伝達書ですから、謡や演技をどう「劇的」に見せるか、聞かせるかについて詳しく記述されています。
今回は「花鏡」の章から「先聞後見」を取り上げます。
ひと言で言えば「能の演技は、しぐさで終わるようにする」です。「まず聞かせ、後で見るようにせよ」と世阿弥は説いています。具体的には「まず観客の耳に訴える謡を聞かせ、そうしてしぐさをそれよりすこし遅らすように演ずれば、謡を受け取った心で型を見ることになり、その聞(もん)から見(けん)に移る微妙な瞬間に、聴覚美と視覚美の融合した感が生まれる」
スピーチやプレゼン、講義で聴覚美と視覚美の融合した感、など考えてもいませんでした。さらに詳しく「一例を挙げれば、泣くという文句の場面では、まず泣くと謡っておいて、それよりわずか遅れるように、袖をあてると、その演出は、しぐさで終わるのである。観客が泣くという文句をまだよく聞き取らぬさきに、袖を顔にあてたりすると、文句の方が型より後にのこるわけで、演技が謡で止まることになる。そのため、しぐさの方が先にすんでしまって、ちぐはぐな様子になってしまう。こういった次第で、能の演技は、しぐさで終わるべきものであるから、『まず聞かせ、後で見るようにせよ』というのである」
「先聞後見」――少しでも心に留めることができれば、スピーチ、プレゼン、講義もいっそう際立つのではないか、と思います。
第二講座(実務編)を担当していますが、「話の目的を意識する」ことを受講生に説いています。説明なのか、説得なのか、指示なのか、目的を意識するだけでも違います。
「聴覚美と視覚美の融合した感」とは高等技術かも知れませんが「意識」するだけでも変わって来る、と確信しています。