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理事 田村 聡 の「講義力をともに高めよう」7

第 7回 『表現の原則』

 この項目は分量が多く、コンパクトにまとめるには苦心します。聴き手に話を聴いてもらうには「感じよく」、そして間違いなく話を理解してもらうためには「正確に」「わかりやすく」話す。これがこの項目の結論です。導入部分では、話が通じなかった身近な具体例を出すようにします。「何か書くものを貸して」と言ってボールペンを期待していたのに、渡されたのは鉛筆だった」という例であれば、なぜこのようになったのかを受講生に問いかけます。そして、「このようなずれが起こらないためにはどうしたらよいかをこの項目で学んでいきましょう」と動機づけを行います。

 話の成立条件の項目で、聴き手の条件に合った対応を心がけることが重要であると学びました。その条件がわからないときも、まずは「感じよく」話すことで相手を聴き手にすることができるでしょう。

(1)感じよく

 ①肯定的に、② 明るく、③ 快く、これは聴き手にプラスの心的変化を起こさせるポイントです。

 そして、短い具体例を出します。「実習をしないとスピーチは上達しません」「実習をするとスピーチは上達します」どちらが肯定的な表現か、一目瞭然ですね。ここではストーリー性のある例話でなくても、このような短い例で十分です。「快く」は敬語も含めて耳障りでない表現とも言えます。「えー」「あのー」などの余分なことばを省くことも快い表現のひとつです。

 しかし、どんなに感じよく表現しても、聴き手に正しくとらえてもらわなければ話の効果はあがりません。そこで正確な表現を意識します。

(2)正確に

 これは、できる限り正しく伝える努力のことです。認識のずれが起こると、それが人間関係に影響を及ぼすことがあります。待ち合わせに遅れそうなときに「ちょっと遅れる、ごめん」と相手に連絡します。相手は5分くらいと思っていたら、実際には15分遅れてしまいました。「遅いじゃないか!」「だから、ちょっと遅れるって伝えたでしょ!」こんな経験はありませんか。「ちょっと」の認識が異なるから、こうなってしまうのです。「ごめん、15分くらい遅れそう」と伝えておけば、このようなトラブルは避けられたでしょう。そのために正確な表現が必要になります。筋道立てて論理に一貫性があること、共通の意味にとれることばを使うこと、主語と述語がきちんと結びついていることなどがポイントになります。端的に伝えられる具体例を探してみましょう。

 難しいのは、どんなに正確な表現でも、聴き手にわからなくては伝わらないということです。そこで、わかりやすい表現にも気を配ります。

(3)わかりやすく

 事件が起きたときの記者会見でよく耳にする「遺憾です」、会合のご案内に書いてある「当日は平服でお越しください」正確な表現なのですが、わかりにくくないでしょうか。

 テキストにはわかりやすいポイントとして「ことば」「発音・発声」「言い方」に分けて数多くの項目が書かれています。どこにウエイトを置いて講義するのかは難しいところです。しかし、すべてに例を出すと冗長な講義になります。いくつかに絞っていくとよいでしょう。わかりにくい例を出すときには、どのような表現であればわかりやすいのかというところまで踏み込むことが必要です。そうしないと、例が完結しません。流行語、略語などの「耳慣れないことば」をただ羅列して紹介するだけでは、講義としては不十分です。時代とともに使われなくなっていることばもあります。「えもんかけ」「アベック」などは若い世代にはわかりにくいでしょう。そこで「ハンガー」「カップル」などと言えば若い方々にも通じます、と伝えれば例として生きてくるでしょう。受講生に疑問を残さないことが講義のコツです。また、同音異義語と類音語は定義をご存じない方も多いと思われるので、丁寧な解説が求められます。双方の相違点にもふれると理解が深まります。類音語が聴き手に誤解されないポイントは「ゆっくり、はっきり発音すること」「別の表現に置き換えること」です。置き換えるとは、7を「しち」ではなく「なな」と表現することです。「しち」は「いち」と受けとられる可能性があります。「半ダース」は「3ダース」と聞こえることもあるので「6個」などに置き換えると誤解を防げるでしょう。

 「表現の原則」は第六講座の「思考から表現への過程」で再度とり上げられます。それだけでなく、話力講座全体にわたって深い関わりをもつ大変重要な項目です。三つの法則が大切な理由を講義の骨格としてしっかりとおさえ、例を厳選して講義内容を組み立てることが大切です。

 次回は「話の障害とその対策」について深めていきましょう。

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