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理事 田村 聡 の「講義力をともに高めよう」9

第 9回 『話すこととことばづかい』

 第一講座も終盤に入り、受講生の皆さまの疲労がピークになる時間です。これからの残り3項目、講師としてはメリハリをつけて頑張りたいところです。

この項目では敬語について学びます。学校の授業で学んできた内容だけに「今さら敬語?」と思われる受講生もいらっしゃることでしょう。しかし、とても重要な項目です。単なる知識として学ぶだけではなく、それがどのように人間関係に影響を及ぼすのかをここでは考えます。つまり「よりよい人間関係をつくるための敬語」という視点を持つことが重要なのです。講義の冒頭で、まず学ぶ意義を明確に伝えるようにします。敬語の使い方を誤って、人間関係で失敗した例などを出せると動機づけにもなるでしょう。相手に応じたことばづかいができると人間関係が良好になり、対話も滑らかに進みます。

敬語テストをどこで実施するのかは担当講師の判断に任されます。私は導入の講義が終わった時点で行っています。模範解答は講義の最後でお伝えしています。思いのほか敬語が難しいことを感じていただいたうえで講義に入ると効果的でしょう。

(1) 敬語の種類

敬語テストの最中に、私は板書しています。尊敬語、謙譲語、丁寧語、美化語を自分と相手との位置関係において、どのように使えばよいのかを図示します。尊敬語は相手を直接高める、謙譲語は自分がへりくだることによって間接的に相手を高める、丁寧語や美化語は対等の位置関係で使うことについて図を使いながら講義します。

なお、テキストでは謙譲語Ⅰ、Ⅱに分かれています。これは国語審議会で出されたものなのですが、やや難解です。話力は実際の生活で役立たせるために学ぶので、ここではひとくくりにして「謙譲語」としても問題はありません。敬語の種類を理解したうえで、次に敬語化するための方法を学びます。

(2) 敬語の形式

① 付加形式

どのようなことばを付加するのか、それぞれについて具体例を交えながら伝えます。

② 交換形式

テキストに一覧表が掲載されています。これをもとに講義するとよいでしょう。二重敬語については取り上げる必要があります。特に「おっしゃられる」はTVなどでも耳にすることが多いので、一般化している錯覚を与えます。しかしこれは誤りですので、なぜ間違っているのかという理由も伝えます。そして、講師自身がうっかり二重敬語を使ってしまうことにならないように留意します。

(3) 「お(ご)」の使い方

つけるもの、どちらでもよいもの、つけないものがあります。ここではテキストの内容をベースに、他の例をそれぞれ1~2つ出すと理解が深まります。

(4) 敬称、人称

ここも同様に、具体例を交えながら違和感のない使い方を講義します。(3)(4)は例を出しすぎると冗長になり、受講生が飽きてしまいます。基本的な用法を伝え、若干の例で補足すれば十分です。最後に敬語テストの模範解答を伝えるときは、必ず2回くり返すことが必要です。そうしないと模範解答の聞き逃しが発生します。敬語は話力の三要素のなかでは、対応力にあたる部分です。習得し、適切に使いこなすには時間と努力を要します。熟練労働です。ここで強調しておきたいことは、①使い方に多少のミスがあっても、心格力や内容力でカバーできる、②まずは使いながら少しずつ身につける、の2点です。話し手の気持ちが入っていなければ、いくら正確な敬語であっても聴き手に敬意が伝わりません。マニュアル敬語の弊害はそのようなところにあります。何より大切なのは、相手を敬う話し手の心です。そこを忘れないようにしましょう。

次回は「会話を楽しくする意味と条件」について学びます。

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