ブログ

理事 田村 聡 の「講義力をともに高めよう」11

第 11回 『好意的人間関係をつくる(人に好かれる)』

 第一講座の最後が「好意的人間関係をつくる」の項目であることの意味を考えてみましょう。話の効果は、相手との好意的人間関係があって初めてもたらされます。好意的人間関係が築かれていなければ、話の効果をあげることはできません。人に好かれるためにはどのようにすればよいのかをこの項目で学びます。第一講座でこれまで学んできたことのすべてがここにつながることを講義の冒頭で強調し、受講生のモチベーションを高める導入ができるとよいでしょう。

(1)好かれることの意義
 人から嫌われるよりは好かれた方がいい―極めて当たり前のことなのですが、ここでは話力の面から好かれることの意義を考えます。以下の3点について、ポイントをおさえて講義します。

 ①人間は孤立しては生きられない
 周りから嫌われて集団の中で孤立したら、どのような気持ちになるでしょう。「自分は必要とされていないのではないか」「自分はいなくてもいいのではないか」など、さまざまな負の感情がわき起こってくるはずです。また、明確に嫌われていないとしても、何かの集まりのときに自分だけ声がかからなかったらどうでしょう。私自身にもそのような経験がありますが「自分はどうでもいい人と思われていたのか」という思いになります。このような状況に耐えていくのは、決して容易ではありません。そのことをまず認識する必要があります。

 ②効果をあげるための基盤
 そして、よい人間関係をつくることが「効果をあげるための基盤」になります。一般的に、人間は話を聴くときに「何を言われているか」よりも「誰が言っているか」にとらわれやすいものです。これは第二講座で学ぶ「忠告の受け方」にもつながる重要なポイントです。「人に対するNG」がそのまま「話の中味に対するNG」になるのです。私の知っている中学生は、嫌いな先生のテストでわざと間違った答えを書いたそうです。やや極端な例ですが、相手に対して拒否感を持つとこのようになりかねないのが人間なのです。

 ③協力するための前提として必要
 そして、話の効果をあげるだけではありません。社会生活を送るうえでは、人との協力関係が必須です。お互いが協力し合うためには、好意的関係がベースになければなりません。嫌いな人には協力したくない、それ以前に関わりたくない―これは人間の持つ自然な感情ですね。生活の中では、苦手な人との関わりを避けて通れないことが多々あります。苦手意識を持つのはやむを得ないとしても、それ以上関係が悪化しないための努力はしたいものです。協力して何かをしなければならない場面では、なおさら必要ですね。嫌わない努力、嫌われないための努力とも言えるでしょう。この点は、あとの項目でも取りあげます。

 このように①~③をつなげながら「好意的人間関係をつくる」について講義を展開します。そのうえで、人はどのような相手に好意を持ちやすいのかを考えていきます。

(2)好意を持ちやすい条件を探す
 相手に親しみを感じやすい条件というとらえ方もできるでしょう。親しみを感じれば、それが自ずと好意に発展していくことがあります。

 ①共通性
 自分と相手との間に同じものを見出すと、喜びの感情が起こります。会話の中で接点が見つかると、急に身近に感じられるという経験をした人は多いと思います。出身地、出身校、年齢などきっかけは数多く挙げることができます。

 ②類似性
 共通性ほどぴったり一致していないけれど、どこか似ていると感じるものが類似性です。「類は友を呼ぶ」ということわざがあります。似たような雰囲気の者同士が集まると気持ちが落ち着き、安心感が得られるということはあるでしょう。それが類似性です。

 ③等価性
 同じものに価値を見出すことで連帯感を持てることがあります。プロ野球でも、それぞれ応援するチームのファンがひとつのエリアに集まって声援をおくりますね。そのチームに価値を感じるからです。そして点を入れたりすると、知らない人同士がハイタッチを交わすなどという場面も目にします。連帯感が好意に結びつくということもあるでしょう。

 ④空間性
 物理的・心理的距離の近さが好意につながることもあります。接する機会が多いと情がわくという心理です。単純接触効果とも言われます。それだけ相手の良さが見えてくるということでしょう。しかし難しいのは、近すぎて逆に相手のマイナス面が見えてしまうこともあります。特に家族関係においては、適度な距離感がお互いにとって心地良い場合もあるので「近ければよい」と言い切れない点にもひとことふれておくとよいでしょう。

 ⑤相補性
 助け合いの精神です。自分の苦手なことをフォローしてくれる人には感謝の気持ちを抱きます。それが行為へと発展していく可能性が生まれます。持ちつ持たれつの関係です。そして、自分に対して感謝の意を示してくれる人にマイナスの感情を持つということは、おそらく少ないでしょう。これは、次の項目で学ぶ「相互交換性」と密接な関係があります。

 ⑥その他
 美貌性、ユーモア性、共感性などが挙げられます。

 このように、各条件の概観について講義し、あとは講師の身近な例でシンプルに補足するとより一層項目への理解が深まるでしょう。

(3)好かれる心構え
 この項目のポイントは、テキストに書かれている図を板書しながら「相互交換的」について講義することです。ここで注意したいのは、自分が相手を好きになれば相手からも好かれると断定できないという点です。特に異性関係では、相手からの行為が負担となって距離を置かれてしまうことも残念ながらあります。断定すると「本当にそうなのかな?」と疑問を持たれる可能性があります。 

 しかし、自分から相手に好意的感情を持つことが良い人間関係のきっかけになるということは言えるでしょう。テキストに書かれている「積極的に相手の良い面を見る温かい心」を持つことが、関係をプラスの方向に発展させるスタートラインになります。「魚心あれば水心」の心理です。表現を変えると「相手を嫌わない心構え」です。そのように理解するとよいと思います。

 そして、心構えを行動としてあらわす努力が次の項目です。

(4)好かれるための努力
 前項で学んだ心構えを表現するための具体的な方法です。

 ①温かい関心を持って接する
 関心を示すひとつの方法は「名前を覚える」です。

 ②優しさを具体的に示して接する
 自分から温かいことばをかけると、相手はこちらの行為を感じてくれるでしょう。①と②はまとめて講義しても構いません。

 ③相手が話しやすいようによい聴き手になる
 話をよく聴いてくれる人は好感を持たれやすいものです。

 ④積極的に相手の価値を認める
 第二講座で学ぶ称賛(ほめる)に結びつきます。

 ⑤ものごとを前向きに考え、心を開いて接する
 自分の考えを前向きにしていくことにより、相手のこともポジティブに見ていけるようになります。④で挙げた「ほめる」につながっていくでしょう。

 どれも簡単にできそうに思えますが、実践は容易ではありません。わかっていなければできないし、意識していなければ忘れてしまいます。だからこそ「努力」と書かれているのです。

 第一講座のこれまでの各項目で取り上げてきた内容が、全く同じ表現でなくても「好意的人間関係をつくる」で再びふれていることにお気づきでしょう。

 ここは第一講座の山場とも言える項目です。講師自身も実践している途上であることを語り、講座全体をしめくくっていきましょう。話力理論を生活の中でいかすには、相当な努力が必要です。失敗があるからこそ、より一層重要性が感じられます。パーフェクトはなくてもベターはあります。受講生とともに話力を学んでいきたいという講師からの呼びかけが講座の余韻にもなります。

 1月号から第一講座の項目をひとつずつ取り上げながら、講義力を高めるポイントを学んできました。次回は連載の最終回として、私が講義を行うときに心がけていることをお伝えします。

TOP