第 12 回 (最終回) 『まとめ』
この連載も最終回を迎えました。全体のまとめとして、私が講義にあたって心がけていることをお伝えします。
- 講義の準備には時間がかかる
私は平成3年(1991年)に第18期研修生として、話力研究所(当時)のメンバーの一員となりました。当時28歳、研究所の中でも最年少でした。研修会は2週間に1回、それに加えて所員と研修生全体の研究会が2週間に1回ありました。週に1回は研究所に足を運ぶという生活です。研修会では第一講座の最初から1項目ずつ取り上げ、研修生が1人ずつ講義実習を行います。5分間の講義実習からスタートしたのですが、準備に20~30時間かかっていました。それでも毎回、青息吐息で講義実習を行っていました。「何でこんなに時間がかかるのだろう」と、気の遠くなる思いを何度もしてきました。慣れてくれば短時間の準備で講義ができるようになると思っていたのですが、それは大きな間違いでした。回数を重ねるほど自分の課題に気づき、それを乗り越えるために時間を必要とします。それは現在でも続いています。講義の準備には相当な時間がかかるものです。
- 講義の土台づくりは入念に
まずはテキストの項目を熟読し、内容を理解した上で骨格にあたる部分をしっかりと組み立てます。「最初はテキスト通りに」が大原則です。研修会では「最初の10年はテキスト通りに講義しなさい。つまらなくてもいいから」と指導を受けました。私は未だにこの段階にいます。最初から個性を出そうと思って自己流に陥ると、話力理論から遠くかけ離れてしまいます。まずは基本に忠実に講義を準備します。項目と項目を結ぶ「つなぎのことば」を工夫しながら、大きな流れを作ります。「何のためにこの項目がここにあるのか」を頭に置き、テキスト全体の中での位置づけを考えると講義全体に深みが増してきます。ここはじっくりと時間をかけたいところです。この土台部分がしっかりとしたものとなれば、講義で失敗することはまずないと言ってよいでしょう。テキストに書かれている項目をひとつひとつ丁寧に取りあげ、もれがないように留意します。
- 例を活用する意味を考える
項目自体は抽象的な内容です。それをわかりやすくするために効果的に活用したいのが例です。直接体験、間接体験の中から、それぞれの項目に合った例を厳選します。ここで気をつけたいことは「語って聴かせるために例が存在しているのではない」という点です。例はあくまで項目の補足であり、「従」の存在です。例が「主」になってしまうと、例だけが受講生の心に残ることになりかねません。その例を通して何を言いたいのかが受講生の頭に残らなければ、例の活用に失敗したということです。例の一人歩きは避けましょう。印象に残る例の使用を否定するわけではありませんが、例の目的を見失ってはいけないということです。メルマガ9月号に秋田理事長が書かれた「天国からのたより」の再読を是非お勧めします。例の活用の仕方については、第五講座「例の必要性とその活用」の項目をご参照ください。講義にも活用できるポイントがたくさん書かれています。
- 講義の練習は必須
ひと通りの下準備ができたら、声に出して講義の練習をしましょう。すると「書きことば」と「話しことば」の違いに気がつきます。ことばに出してみて、しっくりこない箇所があれば、自分にぴったりくることばに置きかえます。これを何回かくり返す中で、こなれてきます。そして講義の感覚がつかめてきます。その時に、ストップウォッチで時間を計りながら練習するとさらに効果的です。板書をする際には、あらかじめホワイトボードの大きさを考えながら全体のバランスを工夫します。マーカーの色は黒、赤、青の3色があれば十分です。私は実際に紙に書いて板書の練習をしています。本番では練習に基づいたレイアウトでホワイトボードに板書することを実践しています。
- さらに欲を言えば…
研究会や話力講座で講義を担当した際には、ふり返りをお勧めします。自分ができたところ、できなかったところ、さらに今後の課題について丁寧に考察します。そして、直後の号でなくてもよいので、ふり返った内容をメルマガに投稿なさってください。研究会のメンバーで共有できるとともに、アウトプットすることで内容力が高まります。また、話力講座を聴講した際のアンケートでは、「何を学び、どのように感じたのか」を具体的に記述することが大切です。勿論、実践されている方はたくさんいらっしゃいます。しかし、通り一遍の内容で終わっているアンケートがあるのも事実です。厳しい言い方になりますが、それでは進歩できません。講師の視点で書くことを意識すると、自分自身が講義をする際にも活用できます。
以上、一年間にわたりいろいろな視点から述べてきましたが、これらはすべて私の主観に過ぎません。ですから、ひとつの意見としてご参考になさってください。完璧な講義というものはありません。だからこそ、講師は悩み続けるのでしょう。私は「これでよかった」と思える講義ができたことは一度もありません。そのような思いが、次の講義への原動力になっています。これからもともに講義力を高めていきましょう。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。