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理事長ブログ「忘己利他」N15

ビジネスコミュニケーション「仕事がはかどる話し方のコツ」
 ◆よりよく生きるためのツール ~ 究極のコミュニケーション能力を磨く ~

改訂第2版

話力総合研究所 理事長 

話力総合研究所 理事長

「14.できる人のことばづかい」

(1)ことばの乱れに染まるな

 「ことばの乱れ」いつの世でも言われていることなのかもしれません。ことばは時代とともに変化します。大多数の人が違和感なく受け止めるようになれば、文法的に誤りだったことばも許容され、「市民権」を得るものなのでしょう。しかし、それには相当の時間がかかるのです。かけるべきなのです。

 私が話力を学び始めた30年以上前には、「食べれる」「受けれる」「投げれる」などの「ら抜きことば」や「おっしゃられる」などの「二重敬語」について誤りだと指摘されていました。これらは今でも誤りです。最近はテレビや鉄道のアナウンス、役所や病院の窓口など日常いたるところで、誤ったことばづかいを聴きます。首をかしげたくなるようなことばづかいがなされています。私たちはどういうわけか、比較的早く誤ったことばづかいに流されるようです。その速度は日に日に増しているように思います。日常にも誤ったことばづかい、不適切なことばづかいが知らず知らずに広がっています。テレビの影響、インターネットの影響が大きいのかもしれません。普段、何気なく使っていることばが、実は誤った使い方かもしれません。

 コンビニに行けば、「お会計のほう、千円です。」「1万円からお預かりします。」 正しくは、「お会計は千円です。」「1万円をお預かりします。」あるいは「1万円から千円お預かりします。」ですね。

 職場では、「お酒とか飲みに行きませんか?」「これから会議が始まります」 これは、「お酒を飲みに行きませんか?」「これから会議を始めます」です。

 レストランでは、「Aランチ3つでよろしかったでしょうか?」 今注文したのに、なぜ過去形にするのでしょうか?「Aランチ3つでよろしいですか?」 「小ライスが無料でつきますがいかがですか?」「大丈夫です」 いるのかいらないのか?迷いませんか?

 最近よく聴く耳障りなことばづかいに「~なっております」「~形」「なので~」があります。

「駅構内は終日禁煙になっております」「明日は曇りのち晴れの予報になっております」「九州の上空に雨雲がかかる形の予報となっております」

「こちらはファッションデザイナーのAさんになります」

「こちらはたいへん人気の商品となっております。なので、お届けまでに少々お時間を要します。」

 いかがですか? 

 誤ったことばづかいが相手に違和感を与えます。不快にさせることもあるかもしれません。人間関係にマイナスの影響を及ぼすことがあるのです。特にビジネスの場では、明らかに実害を伴うことがあります。「なんだ、そのことばづかいは?」と思われないようあらためて、ことばづかいを学びましょう。世の中のことばの乱れに染まらないためにも、正しいことばづかいを身につけましょう。

(2)ことばづかいの意義を知れ

 「ことばの乱れに染まるな!」と強く申しました。ことばづかいを軽く考えていると、問題意識がたりないと、染まってしまいかねません。ことばづかいがなぜ大切なのか、この点を強烈に意識することが大切です。

 ことばづかいは対話の潤滑剤です。相手とスムーズに話をするために必要なのです。人は皆平等です。しかし、立場や状況によって差が生まれます。上司や部下、先輩・後輩といった社会関係の差。親しいかそうでないか、親疎の差、人間関係の差。そして、依頼する側とされる側など状況関係の差などです。これらの差をことばづかいで埋めて、スムーズに話せるようにするのです。

 会社で社員が社長に「社長、話があるからここに座れ!」これほど極端な例は現実的でないかもしれませんが、ぶっきらぼうなことばづかいで話してスムーズに話が進むとは思えません。

 部下が部長に「部長、報告してやるからよく聴けよ!」 

 いかがですか?『なんだその言い方は。もっと「言い方」があるだろ』ということになりますね。

 また、ことばづかいは、品位や教養の表現でもあります。したがって、知らず知らずのうちに、ことばづかいで評価されてしまうのです。職場にお客さんから電話がかかってきます。若手社員が電話をとります。

「部長いらっしゃいますか?」

「部長さんはただいま外出なさっていますが、あなた誰ですか?」

 ここまでひどいことはないかもしれませんが、お客さんはどう思うでしょうか?

「何だ、この会社は。あれが客に対することばづかいか!?」と、会社自体がマイナスの評価を受けてしまいかねません。あるいは、新入社員が課長に、

「課長、この資料拝見してくれませんか?」

「なんだ、今年の新人は。ことばづかいも知らないのか?」などということになりかねません。もっと「言い方」があるでしょうということですね。

 そして、ことばづかいが話の効果を左右します。

「先輩暇そうだな。ちょっと手伝ってくれよ」これでは、どんなに親しい先輩でも気持ちよく協力できないのではないですか。

 家庭でもそうですね。「お父さん、暇だったら掃除くらいしてください。いつもごろごろしているだけなんだから。」これでは、掃除しようという気にはならないですよね。「言い方」を考えないと話の効果があがりません。

 どれも「言い方」ですね。この言い方のことを「待遇語」と言います。人を遇する、もてなす、ことばですね。待遇語には相手を敬って高める敬語、ビジネスの世界で顧客に使うことばである接遇用語、それから相手を卑しめる卑語があります。

 「できる人のことばづかい」ですから、敬語、接遇用語についてお話しします。ぜひ、身につけてください。

(3)敬語の種類と形式を生かせ

 話力講座やビジネスマナー研修で、「敬語の種類と形式」についてお話しします。そうしますと、何人かの参加者が「学校の国語の授業のようだった」と笑みを浮かべながらおっしゃいます。おそらく、昔、学んだはずの懐かしい内容なのでしょうね。正しく覚えていらっしゃいますか? 正しいことばづかいを身につけるためにも必要ですので、あらためて復習しておきましょう。

 敬語の種類は、実務の上では、「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」「美化語」の4種類を区別して理解しておけば十分です。

 「尊敬語」は相手を敬うことで、相手を直接高めることばづかいです。したがって、相手や相手側の立場の人の言動などに使用します。「社長がおっしゃいますことは~」「先生がお話になりましたように~」「先輩が話されたのは~」などとします。相手を高めることばづかいですから、相手との関係から自分側の立場の人や自分に対して使わないよう注意してください。

 「謙譲語」は、自分がへりくだることで間接的に相手を高めることばづかいです。したがって、相手との関係から自分側の立場の人や自分の言動などに使います。「私が申しますことは~」「私がお話ししますのは~」「私が話させていただきますように~」などとします。謙譲語を相手や相手側の立場の人に使わないようくれぐれも気をつけてください。

 「丁寧語」は言い方を丁寧にすることばづかいです。ぶっきらぼうな表現にならないように、語尾に「~です。」「~ます。」をつけます。さらに丁寧にする場合は、「~でございます。」をつけますね。名のる時に「秋田義一!」ぶっきらぼうですね。「私は秋田義一です。」この方が丁寧ですね。さらに「私は秋田義一でございます。」どうですか。感じがいいですね。「今日の天気は晴れ!」よりも「今日の天気は晴れです。」 「これから会議を始める。」よりも「これから会議を始めます。」丁寧ですね。

 最近は「今日の天気は晴れとなっております。」などと冗長なことばづかいを聴きます。おそらく、「~です。」「~ます。」の語尾を強く発音する人が多くなり、柔らかい表現を求めたのだと思います。しかし、丁寧語は「~です。」「~ます。」です。語尾を柔らかく表現すれば、冗長に表現するよりもはるかに効果的だと理解してください。

 最後は「美化語」ですね。美化語は言い方を美しくすることばづかいです。やはり、聴き手にぶっきらぼうな印象を与えない効果があります。「水」ではなく「お水」。「めし」を「ごはん」といいますね。「おさかな」「お酒」「お花」。本来は「さかな」「酒」「花」でもよいのですが、美しい言い方に変えていると理解してください。また、「犬にえさをあげる」と言いますね。本来、犬に敬語を使う必要はないですから、「犬に餌をやる」でよいのですが、これも表現を美しくしている例です。

敬語の種類と形式

敬語の交換形式

敬語の交換形式

 では、どのように敬語にすればよいか?これには規則がありますので、外国語と同様に覚えてください。敬語の形式には、交換形式と付加形式があります。交換形式は、普通のことばを敬語専門のことばに交換します。敬語専門のことばに変えるのですから、原則的に最も敬意の高い表現です。交換形式は上の表のとおりです。数が少ないですから覚えてください。  付加形式は普通のことばにあることばをつけて敬語にします。

 尊敬語の場合は「~れる」「~られる」をつけます。「先輩が話されます。」「Aさんが聴かれます。」「Bさんがお荷物を持たれます。」のように使います。さらに敬意を高めたいときは、交換形式を使うか、「お(ご)~になる」を使います。「先生がお話になります。」「社長がお聴きになります。」「Aさんがお荷物をお持ちになります。」とします。

 謙譲語の場合は、「~ていただく」をつけます。「私が話させていただきます。」「聴かせていただきます。」「お荷物を持たせていただきます。」ですね。さらにへりくだって間接的に相手を高めたいときは、交換形式を使うか、「お(ご)~する。」を使います。「私がお話しします。」「私がお聴きします。」「私がお荷物をお持ちします。」とします。

 いかがですか? 最後に二重敬語に注意してください。例えば「おっしゃる」は「言う」の尊敬語交換形式です。すでに敬語になっていることば「おっしゃる」に付加形式の「~れる」をつけて「~おっしゃられる」。時々聴きませんか?これは、すでに敬語のことばをさらに敬語化していますから、二重敬語と言い、本来誤ったことばづかいです。「先生がおっしゃいますことは~」これが最敬体です。これ以上敬ったことばづかいはありません。にもかかわらず、「先生がおっしゃられますことは~」というのは誤りです。

 敬語の種類と形式を理解し、正しいことばづかいを実践なさってください。

(4)お(ご)を使いこなせ!

 迷うことばづかいのひとつに「お」や「ご」の使い方があります。つけるべきか?つけなくてもいいのか?「お」をつけるのか「ご」をつけるのか? この間、テレビショッピングの音声が耳に入ってきました。「この商品を格安でお提供します」 「お提供します」は聴いていて違和感がありますね。

 「お」や「ご」は過不足なくつけることが原則です。つけすぎると「きざ」な感じを与えます。つけないとぶっきらぼうな表現になりかねません。「これからおピアノのお教室でお稽古なんですよ。」どうですか?少々違和感ありますね。「腹減った。飯食おう!」よほど親しい中なら良いかもしれませんが、乱暴ですね。「過不足なく」に基準はありません。相手や状況に応じて適切に対応することが求められます。「過不足なく」を心がけてください。

 ところで、「お」をつけるのか、「ご」をつけるのか、迷うことありませんか? 一般に、訓読みのことば、和語には「お」をつけます。お水、お花、おさかなと言いますね。ただ、例外もあります。「ゆっくり」「もっとも」は和語ですが、「ごゆっくり」「ごもっとも」のように「ご」をつけます。また、音読みのことば、古来中国から入ってきたことばである漢語には「ご」をつけます。ご旅行、ご感想、ご住所、ご訪問ですね。こちらは例外がたくさんあります。お電話、お帽子、お洋服、お醤油、お正月、お料理、お雑煮、お稽古 等々。音読みのことばですが、「ご」をつけずに「お」をつけます。では、「返事」はどうですか?「お返事」ですか、「ご返事」ですか? これは、どちらも許容されているのです。困りますね。迷ったらどうすればいいのでしょうか?少々乱暴ですが、このように考えたらいかがでしょうか? まずは、頭の中で表現してみる。「お住所」「ご住所」どちらが心地よく聞こえるかです。違和感なく聞こえるのはどちらか判断します。それでも迷ったら、原則にのっとって、訓読みの和語には「お」、音読みの漢語には「ご」をつければよいですね。

 最後に、「お」や「ご」をつけるか、つけないかです。必ずつける場合、つけない場合、どちらでもよい場合があることを意識してください。まずはつける場合です。主として次の場合は「お」や「ご」をつけます。

・相手の所有物にはつける

 お荷物、お電話、お帽子、お洋服、お体、おみ足、おみ帯 など

 相手の足に「お」をつける場合、「おあし」では滑稽ですから、「おみ」をつけて「おみあし」とします。和服の帯も同様です。

・慣習としてつける

 「お」や「ご」をつけないと意味が解らなくなったり、変わってしまう場合です。

 おはよう、お年玉、おかず、ごはん、おひや、おむすび、おにぎり、おてもと などです。

・敬意を表す場合につける

 ご意見、ご訪問、ご感想、お気持ち、お考え、お心遣い など

・形容詞に「お」をつけて敬意を表す

 お美しい、おはずかしい、おきれい、おきらい など

 一方、次のような場合は「お」や「ご」をつけません。

・外国語にはつけない

 ピアノ、バイオリン、オルガン、ジュース、ビール、ケーキなどに「お」はつけません。つけると気障な感じがしますね。

・慣習としてつけない

 ならづけ、いわし、だいこん、にんじん、税金、電車、会社、時計、手帳、かさ など

 つけると滑稽な感じがしますね。

・公共の建物、施設にはつけない

郵便局、病院、学校、図書館、都庁、県庁 など

・「お」で始まることばには原則つけない

 大広間、応接間、置時計、おおぜい、大家さん、奥さん、幼馴染 など

・敬語、敬称にはつけない

 新郎、新婦、令息、令夫人、令嬢、各位、芳名 など

 よく「御芳名」「各位様」など見かけますが、本来は「芳名」「各位」が敬称ですから、このままでよいのです。

・卑俗なことばにはつけない

 若造、じじい、まぬけ、やばい、あほ など

 いかがですか。ついうっかり使ってしまうこともあるかもしれません。人間関係、信頼関係ができていれば、相手も好意的に受け止めてくれるでしょうから、大きな問題にならないでしょう。しかし、あらたまった場では注意すること。そして、日頃から問題意識を持って取り組んでください。

(5)ことばづかいは心づかい

 最後に敬称、人称についてお話しておきましょう。敬称を用いる場合の注意点は、外部の人に話す時は、自分側の人物に敬称をつけないということです。

 職場内では、Xさん、Y課長と言っていても、顧客や取引先など外部の人と話す時はX、Yと呼び捨てにします。たとえ、上司でも先輩でも呼び捨てです。Y課長が隣にいて呼び捨てしにくい場合は、「私どもの課長のYは」「課長のYは」と言いましょう。ただし、本人が隣にいるのに、あるいは外部の人が良く知っているのに、わざわざ「課長の」というのも違和感があるかもしれません。状況を考え対応してください。

 日常でも同様です。普段は、「お父さん」「お母さん」と言っていても、外部の人に対して話す時は父、母ですね。お兄ちゃん、お姉ちゃんは兄、姉。妹のAちゃんは「妹のA」。おじさん、おばさんは叔父、叔母。ここまではたいていの人があらたまった場でそうするでしょう。ついついうっかりするのが、おじいちゃん、おばあちゃんです。外部の人に対しては、「祖父」「祖母」ですよ。

敬称

敬称

 ところで、自分のことを外部の人に話す場合は「私」「わたくし」が一般的です。最近はテレビのコメンテータなどで「僕」を使っている人がいます。しかし、あらたまった場で話す場合、私たちは「私」「わたくし」としておいた方が聴き手に違和感なく受け止められます。また、「自分は~」という人もいますね。体育会系に多いですか?そうした表現が慣習となっているグループ内では構いませんが、やはり一般のあらたまった場では要注意です。

 相手のことは、「〇〇様」「〇〇さん」と名前で呼ぶと親近感がでますね。「あなた」「あなた様」も間違えではありませんが、最近は少々親近感を損なう表現なのかもしれません。相手に応じて対応なさってください。

 自分の会社のことを外部の人に表現する場合、「私ども」あるいは「当社」を用います。最近、「弊社」を用いる人が増えてきていますが、「弊社」は書きことばです。本来話す時には用いません。和語であり柔らかい表現ですので、「私ども」が使えると感じがよいですね。

 では、相手の会社をどう表現しますか?「貴社」ですか?「貴社」は書きことばです。「御社」あるいは社名で「〇〇社様」「〇〇社さん」とします。銀行や病院、団体などで「御社」を使いにくい場合には、銀行名、病院名、団体名に「~さん」をつけて表現するのが無難ですね。

 いかがですか? 原則を踏まえて、その場の状況、人間関係などに応じ、応用問題を解いてください。適切に対応できるよう意識なさってください。ただし、事務的にならないように注意してください。「慇懃無礼」と言いますね。どんなに丁寧なことばを使っていても、気持ちがこもっていないと相手は不快に感じかねません。

 ことばづかいは、「心づかい」です。

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