ビジネスコミュニケーション「仕事がはかどる話し方のコツ」
◆よりよく生きるためのツール ~ 究極のコミュニケーション能力を磨く ~
改訂第2版
「12.説得力を磨け!」
話力総合研究所 理事長
~ できる人は説得力が違う!! ~
(1)一人でできることは限られる
~ 人生は説得の連続 ~
「一人でできることは限られる」それはそうですよね。何から何まで自ら行おうとしても無理があります。同時に行えることは限られます。ですから、誰かに協力を求めたい。そこで、これまでお話ししてきたように、指示したり、依頼したりするのですね。しかし、相手にも都合や事情があります。すぐに応じてもらえるとは限りません。断られたり、ためらわれたりすることもあるでしょう。それでも、何とか協力を求めたい。力が入ります。時には、強制してしまったり、口論になったりしていませんか?
米国の独立宣言の起草者の一人であるベンジャミン・フランクリン(1706~1790 政治家・科学者)は「口論は誰にでもできるゲームだが、双方とも決して勝てない奇妙なゲームだ。」と言ったそうです。フランクリン先生流にいえば、「強制や口論は誰にでもできるゲームだが、勝利者はいない。たとえ相手を屈服させたとしても、納得はしていない。」ということでしょうか。
だいぶ前のことです。外務省の高級官僚と大臣との軋轢が表面化したことがありました。当時のT大臣は歯に衣着せぬ物言いで、国民に人気がありました。おそらく、官僚に対してもその調子で、強烈なことばを浴びせたのでしょうか。官僚にもプライドがありますから、罵声を浴びせられたらたまりません。ますます大臣の言うことを聴かなくなったのでしょう。T大臣もエスカレートして「外務省は伏魔殿のようなところだ」と言ってしまいました。こうして外務省内のゴタゴタが表面化したのです。その時に、ある外務大臣経験者が取材に応えて言いました。「ののしるだけでは人は動かない」と。
強制されて、あるいは口論に負けて、しぶしぶ説得に応じたとしても、「今に見ていろ。。。」などと思いませんか。たとえその場はおさまっても、こういう思いを持たれては、総合的には、あるいは長期的にはマイナスです。できれば、納得して、自発的に協力をしてもらえるように、「しむける」「うながす」「その気にさせる」工夫が必要ですね。
本来の「説得」とは、「指示・依頼を断ってきた相手、実行することをためらっている相手に対して、目的を果たすように促すこと」です。指示・依頼すべき事柄について十分に説明し、知的に理解させます。しかし、場合によっては、相手にも事情や都合がありますから、「話はわかったけれど。。。」と断られるかもしれません。そこで、相手の気持ちにも働きかけて情的に感化させ、心を動かし、納得させるのです。なるほど、そういうことであれば私が行いましょうと自発意思を起こさせる。これが説得ですね。
図.説得=説明+納得
一人でできることは限られます。ですから、人生は説得の連続です。そして説得の効果を高めるためには、説得力をつけること。すなわち話力を磨くことが肝要です。ともに磨いていきましょう。
(2)あなたの話力が説得の効果を左右する
説得は「説明してわからせ、納得させて動かす」でしたね。相手にも事情や都合がありますから、難しいです。巧みな話術、小手先の対応では、相手に「心のしこり」を残すことになるかもしれません。うそ、ごまかしがあると、たとえその時はうまくいったとしても相手に「だまされた」という気持ちを残すことになりかねません。長い目で見たら人間関係にマイナスですね。
米国流の説得術に次のようなものがあるそうです。募金を求める際のテクニックです。
「even a penny technique」
日本流にいえばこうです。少額の「10円でいいから募金して」と言いましょう。そうすれば、多くの人が募金しようとするでしょう。しかも10円ではなくて100円くらいは募金してくれるはずです。
「door in the face technique」
「1000円募金して!無理なら100円でもいい。」最初にハードルをあげておいて、断られる前にぐっと下げる方法ですね。他国との交渉を主としてこの方法で行ったどこかの国の大統領がいましたね。
「low ball technique」
100円募金してほしい時に「90円募金して」という。募金しようとしたら、「あと10円出してくれれば施設も作れるんですが」という。
いかがですか? どのような印象を持たれますか? 米国は合理主義の国、契約の国、ディベートの国ですから、こういうゲーム感覚の方法論が成り立つのかもしれません。しかし、日本人の感覚としてどうでしょうか?「だまされた!」「うまく乗せられた!」などという思いを持ちませんか? そうでなくとも少々違和感がありますよね。日本では、米国流を無考慮に使うのは控えたほうがよさそうです。
効果をあげるには、やはり自分の話力を磨いて臨まなければなりません。話力の基本要素を磨きましょう。何でしたか? 覚えていますか? そうですね。「心格力」「内容力」「対応力」です。説得力を高めるために、次の点を意識してください。
(3)心格力を磨け
① 日頃の言動が説得の効果に影響する
例えば、日頃誰かが困っていても協力しようとしないのに、自分が困ると「協力してくれ」では、虫が良すぎますね。周りの人だって、協力したくないですよね。たとえ助けてあげたとしても、「普段、協力しないくせに、自分勝手だな」などという気持ちはぬぐえないでしょう。
身勝手な言動を繰り返す人に対しても、気持ちが離れますね。説得の効果を高めるためには、日頃の協力姿勢、日頃の相手に寄り添う言動が大切です。
② 人間関係が説得の効果を左右する
誰でも好き嫌いはありますね。人間ですから。嫌いな人、苦手な人から飲食に誘われたらどうですか? 用事がないのに、突然急用ができたりしませんか?
「今日、この後空いている?」
「いや、仕事がたまっているので。。。」
「仕事なら、明日がんばればいいじゃないか」
「いや、子供が病気で。。。」
「。。。」
一方、好意を持っている人から誘われたら、どうですか。たとえ忙しくても何とか都合をつけませんか?人間関係が説得の効果を左右するのです。
③ 会う機会をもて
たとえ、嫌いな人、苦手な人でなくても、人間関係を保つ努力を怠ってはいけません。皆さんは経験ありませんか。「ボーナスの時だけの同級生」ボーナス時期になると金融機関に勤めている同級生がやってきて、預金するように頼まれる。その後はしばらくご無沙汰で、またボーナスの時期にやってくる。最初の頃はよいのですが、そのうち「利用されているだけか」という気になりますね。そういう気持ちにさせてはマイナスです。日頃から会う機会をもって、好意的にかかわる努力が必要ですね。
(4)内容力で勝負
① 説得する事柄について十分に理解する
小泉内閣の際に民間から経済閣僚に就任した経済学者の竹中平蔵さん(1951~)。大臣としてはじめて国会に臨み、他の大臣の答弁を聴いていました。終了後、記者からインタビューされました。
「他の大臣の答弁はいかがでしたか?」
竹中先生、「説得力のある答弁はメモや資料を見ないでなされたときに生まれるということがわかりました。」と答えていらっしゃいました。
説得する事柄を十分に理解して話さなければ、相手に伝わるものではありません。場合によっては、自信のなさが伝わり、相手を不安にさせてしまうかもしれません。
② 自らが納得していなければ訴える力が弱まる
自分が納得できれば、自信をもって話せますね。相手にその熱意が伝わります。
「私にはたいして効果がないのですが、あなたには良いと思うから使ってみて!」などと言われても、心に響いてきませんね。
(5)対応力を生かせ
① 相手に与える印象で結果が変わる
自信を持った態度は相手に安心感を与えます。感じの良い言動は相手を心地よい気持ちにします。話力講座を受講くださったXさんの自己紹介が今でも印象に残っています。
「私の趣味は読書です。1日に何冊も読みます。ですから、毎日のように帰宅するときに書店によって気に入った本を買います。家の近くに本屋があるのですが、そこには行きません。駅から自宅とは反対方向にある本屋へわざわざ行きます。なぜって、家の近くの本屋は本を放り投げるように雑に扱います。不快です。それに対して、駅の向こうでは、購入した本を丁寧に装丁して、うやうやしく掲げて渡してくれます。気持ちがいいのです。」同じ書店です。どちらでも本を買えますが、ちょっとした印象により結果が変わってきますね。
皆さんも贔屓にしている飲食店、書店、衣料品店など、ありますよね。他でも買えるでしょうに、なぜそのお店に行くのですか?感じの良さが大きな理由のひとつではないですか。
② 長期的な視野で適切に対応せよ
説得するときの心構えは「あきらめるな!粘れ!続けろ!!」です。しかし、相手に応じて「潮時を考える」ことも大切です。相手との人間関係、信頼関係を壊してしまっては元も子もありません。どこまで踏み込めるかを考えながら説得します。相手の表情、話し方、態度、しぐさなどを敏感に感じ取り、これ以上踏み込んでは逆効果だと思ったら、次の機会を探りましょう。あるいは、あらためて作戦を立て直すことが肝要です。
(6)説得に成功するための秘訣 ~ 作戦を立てよ! 道具を持て!! ~
こうすれば必ず説得が成功するというノウハウはありません。まことしやかに、「必ず成功する説得術!」などとうたっているハウツー本もありますが、怪しいですね。なぜなら、説得する相手は皆違うからです。性格も考え方も事情も異なるのですから、一律にこうすれば必ずうまくいくというわけにはいきません。
しかし、説得の効果があがったとき、どういう方法で行ったかを知ることは、参考になります。説得に成功した時は、概ね次の方法のいくつかを採用しています。ですから、こうした方法をぜひ生かし、説得に成功するための作戦を立てて行動してください。
① 説得点を発見する
「話すな話させろ。断る理由が説得点」といいますね。理由を聴かずに、理由を尋ねずに、一方的に話しても効果的ではありません。「下手な営業マン(営業パーソン)ほどよく話す」と言われるゆえんです。相手の話を引き出し、断る理由を確認します。効果的に説得するための作戦をたてましょう。
② 注目させ、興味を持たせる
「耳よりの情報があるのですが」「ちょっと小粋な店見つけたのですが。。。」などと注目させ、興味を持たせます。話を聴かせるようにしむけましょう。営業戦略や販売戦略の研修を受けると、「AIDMAの法則」がでてきます。もともとは米国で1920年代に提唱された広告宣伝に対する消費者の心理プロセスを表した略語です。いまだに色あせず、使われています。消費者が商品を購入するまでには、次のような段階があると言っています。
Attention(注目する)
Interest(興味・関心を持つ)
Desire(願望。購入したいと思う)
Memory(記憶にとどめる)
Action(行動する)
ですから、説得する際は、注目させ(A)、興味関心を持たせ(I)、ほしいと思わせ(D)、印象に残して(M)、行動(A)を起こさせるとよいですね。
③ 方法や結果を示す
説得を受けた相手は、求められた事柄が「難しいのではないか?」などと不安に思うこともあるでしょう。また、「応じた場合、どうなるだろうか?」心配でしょう。こうした不安感を取り除くことが必要です。
皆さんは突然「頼みがあるのですが、受けてくれませんか?」と言われたら、どうなさいますか?すぐに、「いいですよ。」と受けますか?そんなことはないでしょう。どんなことなのか心配ですね。予防線をはりませんか?「どんなことですか?」尋ねますね。「ちょっとこの荷物を倉庫まで運んでほしいのです。」「今日の議事録とってほしいのです。」ということでしたら、「あっ、そんなことでしたら。わかりました。引き受けます。」ということになるのではないですか。相手に不安を与えないよう方法や結果を示すとよいですね。
④ 自発的意思を起こさせる
人は一般に他人に動かされるのを嫌う傾向にあります。どちらかと言えば、自ら自由に動きたい。ですから、強制させられたと思わせないよう、「他動」(他人に動かされる)を、ことばで「自動」(自ら動く)に代える配慮や工夫が必要です。
たとえば、職場の中村(仮称)さんに職場の問題の改善策を講じるようにしむけるとします。中村さんを呼んで言います。
「うちの職場には、こうした問題があるよな。」
突然の話に中村さんは少々うろたえながらも「そうですね。」
「どうすればいいかな?」
突然、尋ねられても、なかなかこたえられるものではありません。「そうですね。。。」
「こういう方法はどうかな?」
中村さん、少し考え、なるほどと納得します。「それはいいと思います。」
「では、頼むよ。」
自分で納得し、肯定したわけです。少なからず、強制されたという意識は弱まるのではないでしょうか。
参考までにいくつかの方法をあげておきます。相手に応じて、目的やその場の状況にあわせて工夫してください。
・不安感をあおる
都心のある道路に次のような看板が立てかけられていました。「ここを横断しますと、万一の場合、保険金が支払われないことがあります。xx警察署」
あるいは、病院で「きちんと薬を飲んでくださらないと、入院ですよ。」
相手の不安感をあおり、行動を起こさせようとしていますね。
・幅を持たせる
相手に選択肢を残しておくと強制されたという意識が弱まります。「2つタイプがあります。こちらは新商品。もうひとつは一世代前の商品でお安くなります。どちらになさいますか?」といった具合です。
・プライドをくすぐる
「お客さま、お目が高いですね。」「お客様はお若く見えますね」などと言われると気持ちよくなって、ついつい相手の言い分を聴いてしまいませんか?
・締め切りをせまる
「キャンペーン期間中の今なら半額です。キャンペーン期間を過ぎますと、通常価格での販売です。」などと紹介されますと、「今買わなければ」と思いませんか?
・その他
励ましたり、「考えておいてください」と時間をおいたり、相手の条件に応じたり、長期的に信頼関係、人間関係を損なわない範囲で「自発的意思を起こさせる」工夫をなさってください。
⑤ 補助力を活用する
何か頼みごとをするときに、贈り物をしますね。雰囲気作りに大切な要素です。しかし、あくまで補助力、基本は話力です。
⑥ 第三者を介する
知らない人、あまり話したことがない人に直接説得しようとしても効果的ではありません。相手と好意的な関係にある人に依頼して説得してもらうほうが効果的です。説得を受ける側の人間関係なども見極めて、効果的な方法を見出してください。
⑦ 充足感を持たせる
説得を受けてくれたら、結果が出たら、少なくともひとこと「ありがとう」を忘れないでください。次につなげるためにも大切です。忙しいとついつい忘れがちです。しかし、忘れがちなのは自分のみ。相手は覚えていますよ。「頼まれたから、忙しいところがんばったのに。引き受けたら、お礼のひと言もないんだから。」と思われないように。手を抜いてはいけません。
(7)説得の受け方、断り方 ~ 断る時は逆説得 ~
説得に応じておいて、「やっぱりできませんでした。」では困ります。相手は当然「結果を出してくれる」と思っているでしょう。信頼関係、人間関係を損なうことになりかねません。「仕事のできないやつだ!」などとマイナスに評価されてしまうかもしれません。仕事の内容によっては、トラブルにつながることもあるでしょう。ですから、引き受けるときも、慎重になさってください。引き受けた場合どうなるか?本当にできるか?周囲にマイナスの影響を与えないか?など、よく考えることが大切です。
そして、どうしても応じられない場合、相手も期待していますから、より慎重に「断る」ことが大切です。「断る」場合は、「逆説得」です。「なるほど、そういうことであれば、やむを得ない」と相手を納得させて、あきらめてくれるように「しむける」工夫をなさってください。その際のポイントをお伝えしましょう。
① まず傾聴
「ろくに話も聞かずに断った」と思われては、後々まで禍根を残すことになりかねません。特に忙しい時に頼みごとを持ち込まれては、「だめだめ、今忙しいから!」と言いたくなる気持ちはわかります。わかりますが、ぐっとこらえて、相手の話を最後までよく聴く。忙しいけれど、何とかしてあげられないか、良いアイデアはないかという気持ちで耳を傾ける。こういう姿勢、こういう心構えが、相手に伝わります。特に忙しい時にこのことを忘れないでください。
② 抵抗を和らげることばを使う
話を十分聴いた上で、どうしても受けられないということであれば、断らざるを得ません。複数のことを同時にこなすのはなかなか難しいですから、先約があればやむを得ないです。しかし、頭ごなしに断られては、相手は気持ちの良いはずがありません。何とかしたいのだが、申しわけないという気持ちを表すことばが必要です。
「もうしわけない」「ごめんなさい」「私ができればよいのですが」「何とかしたいのだけれど。。。」など、まずは相手の抵抗を和らげることばを伝えます。この時、ことばと表情を一致させることも忘れないようにしましょう。事務的なことばは逆効果です。気持ちをことばに表すのです。気持ちを表すのですから、おのずと表情は「申しわけない」という表情になりますね。
③「ノー」をはっきりわからせる
とはいえ、あまりにも相手に配慮しすぎて、あいまいな返事にしてはいけません。逆効果です。人は一般に自分に都合の良い解釈をします。「考えておきます」自分では、断ったつもりでも、相手は「考えてくれるんだ。受けてもらえるだろう。」などと期待しているかもしれません。後々、問題になります。「引き受けられない」ということをはっきり伝える必要がありますね。
④ 事情や理由を示す
相手は引き受けてもらえる。何とか説得すれば受けてもらえると思っているものです。ですから、「ノー」と言われれば、「なぜだ!?」という気持ちが起きます。この「なぜだ」に誠実に応えることが大切です。こうした時に、独りよがりな事情や理由を伝えていませんか?これでは、相手の「なぜだ!?」を和らげることはできません。相手が納得できる事情や理由を丁寧に伝えるとよいでしょう。真実、事実を伝えます。事実でないことは必ず後でわかるものです。人間関係、信頼関係を損なうことになりかねません。
⑤ 代案を示す
できれば、代案を示すとよいでしょう。たとえ断っても、相手の納得できる受け入れ可能な代案であれば、感謝されることもあるでしょう。部下から披露宴でスピーチを頼まれる。その日は先約が入っている。
「申しわけない。その日は、取引先との会合があり、どうしても外せないんだ。そうだ。私は引き受けられないが、めでたいことだ。部長に頼んであげるが、どうだ?」いかがですか?これなら、断られた側も残念ではあるものの、納得できるのではないでしょうか?
引き受けるときも、断る時も慎重に。
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