ビジネスコミュニケーション「仕事がはかどる話し方のコツ」
◆よりよく生きるためのツール ~ 究極のコミュニケーション能力を磨く ~
改訂第2版「3.好意的な人間関係を築く8つの原則」
話力総合研究所 合宿研修会
たとえ同じように話しても相手との人間関係によって話の効果が変わるということをお話ししました。Aさんが話すと多くの人が納得するのに、同じことをBさんが話すと反発されるなどということはありませんか?好意的な関係であれば、たいていのことはうまくいくでしょう。一方、面識のない人、関係がぎくしゃくしている人に話す時は、ちょっとしたことでも納得してもらうのにかなり努力を要するのではないですか?話の効果をあげるためにも周囲との好意的な人間関係を日頃から築く努力をなさってください。これから、好意的な人間関係を築く8つの原則についてお話しします。
(1)無視しない努力
人は人とかかわりながら生きる動物です。ですから、一般に無視されることを嫌います。無視されると不快ですよね。まずは周囲を無視しない努力をなさってください。これは結構難しいですよ。自分は無視していないつもりでも、相手がどう思うかですから。相手の存在に気づいていることを相手にわかるように伝えなければなりません。つまり「相手を察する」のです。どうしますか?以心伝心はありえませんよ。そうですね。相手に聞こえるように、ことばに出さなければ伝わりません。どんなことばですか?「相(手を)察(する)」すなわち「あいさつ」です。「あいさつ」の意味は相手を無視しないことです。そして、あいさつの心得は、「あ」「い」「さ」「つ」に込められています。
「あ」あかるく、あたたかいことばで、感じよくあいさつする。あいさつする際の表情も大切です。もちろん、相手を見て、にこやかになさってください。
「い」いつもする。相手の存在に気づいたら、いつもすることが大切です。機嫌のいい時はするけれど、そうでないとしないのでは、効果的ではありません。
「さ」先にする。自分が先輩でも上司でも、相手の存在に気づいたら、すぐに挨拶することです。部下や後輩からあいさつするのが礼儀だと考えていませんか?部下や後輩がそう考えれば素晴らしいことです。しかし、あいさつは相手を無視しないことですから、相手の存在に気づいたら「先に」あいさつなさってください。あるいは、先にあいさつすると軽くみられるなどと思っていませんか?自ら率先してあいさつを実践すると、職場の風通しがよくなりますよ。職場の雰囲気が生き生きしてきますよ。「部長は気さくだ。」「部長はえらいのに腰が低い。」などと尊敬されますよ。むすっとしているより、はるかに効果的ではありませんか?
「つ」相手に先手を取られたら、間髪いれず「つづけて」挨拶を返すことです。間を空けないということです。間を空けてしまいますと、相手に余計なことを考えさせてしまいます。「あの人、私のこと嫌っているな」「何か言いたいことあるのか?」などですね。そういうつもりでないのに、そのように思わせてしまったら、効果的ではありません。
私は、某大学の非常勤講師をしています。講師控室に入って、周囲の先生にあいさつします。中には「誰だ?しらないなぁ~」といった表情で、こちらをぎょろっと見て、無言の先生がいます。知っていても、知らなくても、あいさつされたら、あいさつを返す習慣を身につけましょう。また、どうしてもあいさつを返してくれない場合、指名してみましょう。「~さん、おはようございます」と言えば、あいさつを返さざるを得ない気持ちになるでしょう。
そして、決まり切ったあいさつことばだけでなく、できれば一言工夫したいですね。「おはようございます。昨日はありがとうございました。」「こんにちは。忙しそうだね。」「やあ、今日はよくすれ違うね。」何でもいいのです。あたたかいことばをかけてください。ことばをかけられない状況であれば、相手にわかるように会釈する。これも相手を無視しない努力です。
あいさつとともに大切なのは「返事」です。最近、返事のできない人が増えていませんか。役所や郵便局、病院の窓口で時々見かけます。「Aさん」「Aさん!」「Aさん!!」窓口の担当者が呼びかけます。突然、ぬっと現れて「聞こえているよ!」
「返事」も相手を無視しないことです。返事は何と言いますか?「はい」ですね。この「はい」には気持ちをこめてほしいのです。「はい」は「拝」の気持ちで。相手を拝む、尊敬する気持ちをこめて「はい」です。「はい」は「配」の気持ちで。相手に配慮する、気を配る気持ちをこめて「はい」です。「はい」は「背」の気持ちで。責任を背負う「背」です。私に任せてくださいの「はい(背)」ですね。
そして返事のしかたは、「あすはあす」と語呂合わせで覚えてください。
「あ」あかるい声で「はい」
「す」すぐに「はい」
「は」はきはき、1回「はい」。「はいはい」など投げやりな返事は、相手に不快感を与え、効果的ではありません。
「あ」相手を見て「はい」
「す」素直に「はい」。「へぃ」などの卑屈な返事も効果的ではありませんね。
あいさつ、返事は相手を察すること。無視しない努力を実践し、継続する。周囲とのより良い人間関係を築くための一歩です。
(2)態度に気をつけて
「態度は視覚に訴える言語」と言われます。ことばを介して伝わる内容を理解するには相応の時間がかかります。一方、目を介して伝わる映像は、ことばよりも早く印象に残ります。
「態度に注意しましょう」とお話ししますと、「態度は枝葉。中身が肝心だ!」などと反論する方がいます。特に自信家に多いようですね。もちろん、中味が肝心です。ですから、内容を持っている人ほど態度に気をつけてほしいのです。なぜなら、目から入る情報がいち早く相手の気持ちに影響を与えるのですから。どんなに良い話でも態度が悪いと聴いてもらえません。不祥事をお詫びするときの態度が適切でなく、自分では思ってもみなかった事態に発展してしまった。こうした行政や企業のトップ、芸能人を時々見かけますね。態度の良し悪しが相手に好印象を与えたり、不快にさせたりするのです。そして結果的に話の効果にプラスやマイナスの影響をもたらします。先輩後輩、上司部下などの社会関係、親疎の人間関係、そして、依頼する側、される側などの状況関係、こうした関係に応じて適切な態度で接することです。
好意的な人間関係を築くための好ましい態度は、前述したように相手との関係において決まります。一応の目安として、「礼(は)背目手足服・表情・身だしなみ・くせなくせ」を意識してください。
① 礼(おじぎ)
おじぎには、会釈、敬礼、最敬礼があります。会釈は主としてあいさつを交わす時。敬礼はお礼のことばを伝えるときや、あらたまった場のあいさつ。最敬礼はお詫びの時にします。図のように、頭の先から腰までを一直線に、会釈は15度、敬礼は30度、最敬礼は45度傾けます。その際、手は体の両脇につけます。しっかり伸ばし、すべての指をつけ、中指に力をいれます。状態を傾けるときに、腕を上体の傾きに合わせて、自然に曲げます。腰から足までも一直線です。かかとをつけ、「は」の字型にし、土踏まずに重心を置き、しっかり立ちます。相手をやさしく見て、ことばとともに状態を傾けます。相応の角度に傾いたところでピタッと止めます。さっと状態を傾け、ピタッと止め、ゆっくり上げます。これは、相手より先にお辞儀をし、相手より後から頭をあげることです。相手への経緯を態度に示すのです。最後に、また相手をやさしく見ます。
きれいなおじぎは、相手に好印象をもたらします。しっかり練習なさってください。
② 背
背筋や腰、膝を伸ばします。反ってしまうと尊大な印象を与えかねません。また、前かがみになると自信なさそうな印象を与えます。
③ 目
状況にもよりますが、やわらかい、やさしい視線を相手に投げかけます。相手を凝視しないよう気をつけましょう。相手の顔全体に焦点をあてるように、あるいは、両目と口を結ぶ三角形に視線を置くように心がけましょう。
また、「目は口ほどに物を言う」と言われます。きょろきょろしたり、伏し目がちにならないよう気をつけてください。
④ 手
手の動きも気になります。目障りにならないよう、できるだけ動きを少なくしましょう。自然に両側にたれるか、軽く両手を組んで、自然に前に降ろすとよいでしょう。この場合、指が無駄に動かないよう意識なさってください。
⑤ 足
足はかかとをしっかり床につけ、上体の重心を両足にかけるようにします。この時、膝を曲げたり伸ばしたり、かかとをあげたり下げたりしないように気をつけてください。
⑥ 服
服装も相手や状況に応じて適切なものを着用しましょう。特に清潔感が大切です。好意的な関係を築くうえで服装に無神経にならないようにしましょう。自分勝手に決めつけた服装も禁物です。夏場、「今はクールビズだから」と初めて会うお客さんのところにラフな服装で訪問するのは厳禁です。ネクタイをしていけば、お客さんは「クールビズなのですから。。。」と言ってくれるでしょう。そのくらいでちょうどよいのです。「フェイルセーフ」で対応してください。
⑦ 表情
人は、一般に明るい表情を好みます。感じの良い印象を持ちます。暗い表情は不快感を与えかねません。状況にもよりますが、状況が許す限り、にこやかな明るい表情を心がけましょう。
⑧ 身だしなみ
服装同様、状況に応じて適切な身だしなみを心がけてください。ポイントはつねに清潔で、品位があることです。これも自分ではなく相手がどのように感じるかを意識してください。とにかく無精をしないように意識しましょう。
また、相応の事情がない限り、マスクをしたまま人と話をしないことです。もちろん医療行為などで許容される場合もあります。しかし、一般的には気をつけたほうが良いでしょう。特に初めて接する人の場合、不快感を与えかねません。要注意です。
⑨ 癖なくせ
俗に「なくて七癖」と言います。やたらに手を動かしたり、咳ばらいをしたり。相手を不快にさせかねない目障り、耳障りな「癖」を取り除くよう意識してください。
他にも威張った態度、落ち着かない態度、気取った態度、卑屈な態度、なれなれしい態度、投げやりな態度など、慎まなければなりません。難しいですよ。自分ではそういうつもりでない場合が多いです。仕事の立場上、身についてしまった態度などもあります。職場ではよくても、客先や地域で人とかかわる場合に、「ずいぶん偉そうな感じの人だなあ」などと相手に不快感を与えかねません。
また、気持ちの伴わない形ばかりの「好ましい態度」も逆効果です。効果をあげるためには、好ましい態度と気持ちを一致させることが前提であることを忘れないでください。「態度に気をつけて」ひとつひとつ意識をして実践なさってください。
(3)好意の返報性を意識する
「思えば思われる。嫌えば嫌われる。無視すれば無視される。」と言われます。自らの気持ちを反映した言動がやがて自分に返ってくる。好意の返報性。何かお世話になったり、協力をしてもらうと、お返しをしたくなりませんか?心理学で「返報性の原理」と言うそうです。
かなり前のことで恐縮です。勤めていた会社を辞めて数年たっていました。朝7時過ぎだったでしょうか、自宅から最寄り駅まで歩いていた時のことです。私の傍らを追い越していく男性に目がとまりました。「あっ、Oさん」声をかけました。職場で同僚だったOさんでした。「いや~、久しぶりですね。あれっ。こちらにお住まいでしたか?」話を聴いてみると、最近引っ越してきたとのことでした。それから、時々Oさんを見かけるようになりました。だいたい私の横を通り過ぎていきます。「あっ。Oさん、おはようございます。今日は寒いですね。」私が声をかけます。不思議なことに、Oさんから先に声をかけられたことがありませんでした。徐々にそのことが気になりました。いつも、私の横を無言で通り過ぎようとしているのではないか?だんだん、かわすことばが重たくなっていったように思います。なんとなく、声をかけるのがつらくなりました。「声をかけられるのは迷惑なのかな?」と思えてしまうからです。Oさんはそういうつもりではなかったのかもしれません。しかし、「無視すれば、無視される。」気持ちが離れてしまうのです。人間ですから。人を無視するものではないと、頭でわかっていても心が離れてしまうのです。悲しいことです。
できうることなら、「思えば思われる。」を実践したいですね。しかし、ことばでいうほど簡単ではありません。人間は感情の動物ですから。嫌いな人、苦手な人を「好きになりなさい!」と言われても無理ですね。ですから、次のように考えたらいかがでしょうか?まずは、好意的な関係を維持することです。不用意なひとことで、せっかく築いた良い関係を壊さないように。普通の関係がぎくしゃくした関係にならないように。注意しなければなりません。そして、できれば何かきっかけをつかんで、普通の関係から好意的な関係を築けるよう努力したいですね。
さて、嫌いな人、苦手な人をどうするか?まあ、つきあわなくてもいいのであれば、それでいいのかもしれません。避けることができるなら、それでもいいでしょう。しかし、職場では、なかなかそのようにできないのではありませんか?場合によっては、1日8時間、週に5日間顔を合わせることになりますね。1年、2年、3年以上、続くかもしれません。こんなつらいことはありませんよ。まずは何とか、それ以上ぎくしゃくした関係にならないように努めましょう。そして、何らかのきっかけをつかんで普通の状態に近づけていく努力をしてみましょう。この場合、後述する「好意を持ちやすい条件」などを生かすとよいでしょう。
苦手な人、嫌いな人に好意は持てなくても、普通の状態に近づけていくのであれば、なんとかがんばれそうですね。ともに努力してまいりましょう。
————— 好意 ↓ 落ちないように
————— 普通 ↑ 努力 ↓落ちないように
—————- 苦手 ↑ 努力
(4)好意を持ちやすい条件を生かす
人は皆、個性的です。考えも嗜好も性格も違います。人それぞれです。そういう「人」を相手に「好意的な人間関係を築く」努力をしましょうと言われても途方にくれますね。そこで、「好意を持ちやすい条件」を生かしましょう。一般に人が好意を持ちやすい条件には次のようなものがあります。
① 共通性
出身地が同じ、学校が同じ、苗字や名前が同じ、職場が同じなど何らかの共通点があると好意を持ちやすいものです。
私の話力の師、永崎先生は大正15年生まれ、鹿児島出身、早稲田大学卒業です。普段は、表情を崩さず、威風堂々としています。どちらかというと、近寄りがたい印象です。しかし、相手が鹿児島出身、あるいは早大の後輩とわかると、急ににこやかに楽しそうに話しているのが印象的でした。
また、勤めていた頃のことです。ある会合で自己紹介をしました。「T社の秋田です。」その会合の懇親会でのことです。女性の方が話しかけてきました。「秋田さん、T社なのですね。私の父がT会社でした。定年退職しましたけれど。」この話をきっかけに、話がはずみました。この方とはそれ以来20年以上のおつきあいです。
仕事で秋田県を訪れたときのことです。たいへん心地の良い思いをしました。ホテルに到着し、フロントで姓名を記載していますと、フロントの女性がニコニコしているではありませんか。最初、このホテルずいぶん愛想がいいなと思いました。しかし、他の宿泊客を見ていると普通です。さては、「秋田が秋田県を訪れたから?」と思いました。半信半疑でした。翌日、目的の団体を訪れ、名刺交換しました。「話力総合研究所の秋田です。」と言って、名刺を差し出しました。相手の方も名刺を出してくださいましたが、名のるよりも早く、「秋田さんとおっしゃるのですか?ご出身は?」ニコニコして、そうおっしゃいました。苗字が「秋田」というだけで、話がはずみました。
皆さんにもこういう経験いくつもありますね。
② 類似性
性格が似ていると合わせやすいですね。相手の考えや行動も比較的理解しやすいでしょう。趣味が似ていれば会話がはずみ、結びつきが強くなります。
③ 等価性
価値観が同じであれば、近づきやすいですね。誰かのファンであったり、スポーツの同じチームを応援していると、それだけで親しみを感じるでしょう。野球やサッカーの観戦にスタジアムに行き、気づいたら見ず知らずの隣の人と肩を組んで応援していた!などということはありませんか。
同じ政党や政治家を応援している。同じ宗教である。ボランティア活動に精を出しているなど、価値観が同じであれば、心理的な結びつきが強くなるでしょう。
④ 空間性
人は近い距離にいると、距離が遠いよりは親近感を持ちやすいものです。20代の頃、ほとんどの同僚は職場結婚でした。そのほとんどが、お互いの席が近かったように思います。
また、何らかの体験を共有していると、親近感を持ったり、話がはずみやすいです。富士山に登った経験、外国の同じ都市に行った経験などですね。
⑤ 相補性
お互いに補い合うものがあると、近づきやすいです。堅実な人と社交的な人、話の上手な人と文章のうまい人などです。ですから、何か一つ、二つ特技を持つと、人が近づいてきますよ。「特技」大仰に考える必要はありません。個性、特徴、取り柄と考えて、磨いてみましょう。
⑥ 美貌性
人は美しいものに心をひかれます。「それでは、私は顔(体形)がよくないから、無理!」そうではありません。こぎれいにしていることが大切です。どうでもいいといった無神経な外見、なりふりかまわぬ容姿などは改めるべきです。外見とともに、内面の温かさ、やさしさも磨いていきましょう。
⑦ ユーモア性
申し上げるまでもなく、明るくユーモアに富んだ人の周りに、人が集まってきますよね。自分を隠して見せないと、相手にも警戒されます。自己開示が大切です。天真爛漫、あっけらかんとして人に接することも必要なのかもしれません。もちろん状況に応じて、適度にではありますが。
いかがでしたか。皆さんと好意的な関係にある人のことを考えてみてください。その関係は、「好意を持ちやすい条件」のどれかから始まっていませんか?これは、好意的な人間関係を築くためにどのような努力をしたらよいかの目安になるはずです。また、話のきっかけとしても使えます。これらの条件を生かし、周囲の人たちとよりよい関係を築いていきましょう。
(5)温かい関心を持って 優しさを具体的に示す
温かい関心を示されれば、大多数の人は快く感じるのではないでしょうか。優しさを示されればなおのことです。プラスの心的変化が蓄積されることで、相手への好意が増幅されるのです。
しかし、たとえ温かい関心を持っていても、やさしい気持ちを持っていても、それを相手に「示す」ことができなければ何にもなりません。「以心伝心」はほとんど期待できません。人間ですから。では、どうすればよいでしょうか?そうですね。ことばで相手に伝えることです。この場合、表情、態度、しぐさも、ことばに合わせて「温かい関心」「優しさ」を示すものでなければなりません。相手に応じて、適切なことば、態度、表情、しぐさが求められます。行きすぎに注意してください。「セクハラ」と言われないように。相手に不快を与えては逆効果です。また、変な関心を示さないように注意してください。「Aさん、今日誕生日だね。いくつになったんだ。えっ。まだ20代!ずいぶん老け顔だなぁ」 ついうっかり余計なことを言ってしまっては、マイナスです。
応じる側も同様です。せっかく相手が関心を示してくれているのに、不用意な一言で雰囲気を台無しにすることもあります。
ずいぶん前のことですが、私の失敗談です。息子の小学校の保護者会だったと思います。親がお弁当を持参して会食しながら親睦を深める企画だったのでしょう。お弁当を持参し、参加しました。私の目の前に座った恰幅の良いお母さんが話しかけてきました。「あら、そんなに小さなお弁当で足りますか?」「あんまり食べると太るので。。。」「。。。。。」しまった!と思いましたが、ことばは消せません。それから、気まずい雰囲気になってしまいました。親しくお話しするきっかけを作ろうとしてくれたのだと思います。せっかくのチャンスをたった「ひとこと」でつぶしてしまいました。
皆さんは、こうしたことにならないよう気をつけてください。温かい関心を示す。優しさを具体的に、ことばで示す。ことばとともに、態度、表情、しぐさで示す。ちょっとしたことの積み重ねです。具合が悪そうであれば、「体調がすぐれないのですか?お大事になさってください。」にこにこしていれば、「何かいいことありましたか。うれしそうですね。」忙しそうにしていれば、「忙しそうですね。何かお手伝いできることがあったら声かけてくださいね。」こうしたひとことの積み重ねが好意的な関係を築くことにつながるのです。ともに努力していきましょう。
(6)「傾聴は愛のはじめなり」傾聴を心がける
「傾聴は愛のはじめなり」とは、道元禅師(1200年~1253年)のことばです。道元禅師は曹洞宗の開祖で、福井県の永平寺を開いた鎌倉時代初期の禅僧です。多くの良いことばを残しています。そのひとつが、この「傾聴は愛のはじめなり」です。わたしは、このことばを「相手の話をよく聴くことが好意的な人間関係を築くことにつながる」と解釈しています。
職場や日常生活の中で、皆さんの話をよく聴いてくれる人に対してどういう感情を持ちますか?決して「不快」ではありませんよね?多少なりとも心地よい気持ちになりませんか?この気持ちが繰り返されることにより、相手に対して徐々に好意を持つようになるのです。また、皆さんの愚痴を聴いてくれる人に対して、どういう気持ちを持ちますか?「いい人」ですよね。一般に、他人の愚痴は聴きたくないですよ。それにもかかわらず、熱心に聴いてくれる人。それは自分にとってかけがえのない人になるはずです。
人は本来話したい動物です。話したい欲求を「傾聴」で満たしてくれる相手に対して、好意を持たないはずはありません。日頃から聴く側に回ったときには、意識して「傾聴」を心がけてください。相手にやさしい視線を投げかけながら聴くのです。相槌を打ちながら聴くのです。熱心に聴いているということを相手に伝えながら聴くのです。相手の気持ちをくみ取りながら聴くのです。相手の本音、真意を正しく受け止めようという気持ちで聴くのです。話を聴く時は、どんなに忙しくても、相手に向き合って、聴くことに集中します。何かをしながら聴いたり、聴き真似はもちろん厳禁です。
日頃から「傾聴」を心がけ、好意的な人間関係を築く努力を続けましょう。
(7)相手の価値を認める
「ほめ上手ほんとうはほめてもらいたい」「ほめられたことばを自分で言ってみる」という川柳を聴いたことがあります。確かにそうですね。「ほめられたい」という気持ちは、だれしも持っているのではないでしょうか。なかには、「私はほめられたいと思わない」などと言っている自信家もいるかもしれません。しかし、そういう人でも、「尊敬するあの人にだけは認められたい」という思いを持つものではないでしょうか。「相手に認められたい」という人が持っている普通の願望に応えていくことが大切です。その結果として相手から好意的な感情を持たれることになるのです。思っていても伝わりません。ことばに出さなければ伝わりません。「おせじ」や「おだてる」ではいけません。事実でないからです。事実を伝える。自分が感じた気持ち、感動した気持ちをことば、表情、全身で伝える。そして、相手に「認めてくれた」と思わせる。日頃からこうした努力をなさってください。そして、習慣にしてください。自然にことばが出るようになればいいですね。難しいことではありません。ひとことでもいいのです。要は継続することです。
東京の神田駅西口にある中華料理店にはじめて入ったときのことです。夕食には早い時間帯だったのですが、5,6組のお客が入っていました。40代くらいの男性店員がひとりで接客していました。すごい表情で、汗をかきながら走り回っています。驚くほど手際が良くて、感心していました。私たちのところに注文した料理を持ってきたところで、声をかけました。「おにいさん。。。」その店員は、「遅い」と文句を言われると思ったのか、一瞬顔がこわばり、身構えていました。「おにいさん、手際がいいね。ひとりなのに。てきぱき。でも一人でたいへんだね。」みるみる男性店員の顔が崩れました。「この時間帯にこんなにお客さんが来ると思っていなくて。もうすぐ、2人来ますので。遅くなってすみません。」たったひとことでした。私の素直な気持ちを表現しただけです。しかし、彼はそのひとことで、私を覚えてくれました。先ほどまでの、ものすごい形相は影を潜め、私のテーブルに来た時はたいへんフレンドリーに応対してくれました。そればかりでなく、数週間後に店を訪れたときも忘れていませんでした。そのうち、食後のデザートをサービスしてくれるようになりました。あとからわかったのですが、彼は店長でした。別にサービスを期待して話したわけではありません。相手の価値を認めることばを素直に表現しただけです。たったひとこと発しただけです。
これは一例ですが、私は相手を認める肯定的なことばを発するように心がけています。どこでも、だれにでも、できる限り。
仕事で札幌に行った時のことです。空港内のすし店に入りました。お店のおかみさんと思しき70を超えているであろう女性が、大きな声で「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」若々しい声なのです。声が透るのです。私は帰り際、この女将に声をかけました。「よく透る、きれいなお声ですね。」「えっ!?」女将さんは一瞬戸惑った表情を浮かべたのち、顔をくしゃくしゃにしながら、にこやかに、また一段と大きな気持ちのこもった声で「ありがとうございました!」
たったひとことが、相手の気持ちを快くします。その結果が好意につながります。見ず知らずの人に対してもこれだけの結果が出るのです。ですから、家庭や職場の身近な人に手を抜かないでください。具体的な「ほめ方」については後述する予定です。まずは、好意的な人間関係を築くためにも、相手の価値を認める努力をしていきましょう。
(8)ものごとを肯定的に受け止め、心を開いて接する
人とかかわりますと、相手のことば、表情、しぐさや行動の結果について、快く思うこともあれば、不快に感じることもあるでしょう。不快なことが続きますと、当然ながら、相手に対してマイナスの感情が高まります。逆に快く思うことが多くなれば、相手に対する好意的な感情が増すのではないでしょうか。
どのような事柄にも、「快く」感じる肯定的な側面と「不快」に感じる否定的な面があるものです。難しいことかもしれませんが、できるだけ肯定的に受け止める努力をしてみましょう。例えば、「頑固な人」は、肯定的にとらえれば「意志のかたい人」ですね。「おせっかい」は「面倒見が良い」。「でしゃばり」は「積極的」。「優柔不断」は「柔軟性がある」。「奇人・変人」は「個性的」。「単純」は「わかりやすい」。「主体性がない」は「協調性がある」。
お酒好きのAさんから聴いた話です。時々友人を家に招いて、宴会をしていました。ある時、Aさんが外出中に友人がやってきました。Aさんが大切にし、少しずつ飲んでいたウィスキーのボトルを半分くらい飲んでしまいました。帰ってきたAさんはそのボトルを見て、「もう半分しかない」と叫びました。それを聴いた奥さんは「まだ半分あるじゃない」とAさんをたしなめたそうです。同じ半分ですけれど、そのとらえ方によって印象が違ってきます。
皆さんは苦手な人をどのように見ていますか?どちらかというと否定的な側面からとらえているのではないでしょうか?その人はどんな人ですか?そのことを肯定的なことばで言い換えることができますか?考えてみましょう。気持ちが少し楽になるかもしれません。
私が大学を卒業して勤めだした頃でした。職場の先輩Bさんから、毎日細かい注意を受けていました。それは、仕事のしかたから食事の時の箸の持ち方まででした。その当時は、「うるさい人だな」「細かい人だな」などと思っていました。もちろん、苦手な先輩でした。しかし、ある時期から思いが変わりました。Bさんに育ててもらったと思えるようになりました。若かったですね。当時から、「育ててくれているのだ」と少しでも思うことができていれば、Bさんとのかかわりは違っていたかもしれません。
さて、もう一つのポイントは、「心を開いて接する」です。強がりばかり言っていると親近感がわきません。時には、自分の本音や弱みを見せることも必要でしょう。それが親近感につながり、好意的な関係を築くきっかけになるのです。
勤めていた頃、苦手な上司がいました。顔を合わすのも、声を聴くのも嫌でした。避けていました。顔をあわしたとたん、無理難題を押しつけられる。そういう思いがありました。しかし、残念ながら、仕事ですから顔を合わせないわけにいきません。いつもいやいやでした。「仕事、仕事、仕方ない」と念仏のようにぶつぶつ唱えながら接していました。ある時、長野県の上田まで2人だけで出張することになりました。当時は新幹線がありません。上野駅から特急で2時間。ボックス席に対面で座り、無言の2時間でした。「仕事、仕事、仕方ない」頭の中で唱えていました。仕事が夕方までかかり、帰りの特急がありません。その日は現地で1泊することになりました。言わなければいいのに、上司が「一杯やろう」。私は飲めないのに、つきあわされました。その時でした。毎日、自信の塊のようだと思っていた上司が、ぽつりぽつりと愚痴をこぼすではないですか。「俺も辛いんだよ。業績あげなければ、部がなくなってしまう。。。わかってくれよ。。。」この話を聴いたとたん、これまでの胸のつかえがすうっと取れたような気持ちになりました。いつも自信たっぷりなこの人にも、こんな面があるのだ。この人が言ってくる無理難題にチャレンジしようじゃないか。そんな前向きな気持ちになったのを覚えています。徐々にでしたが、普通にかかわることができるようになりました。そして、上司が職場を離れるときに、私は「一緒に夢のある仕事ができて楽しかった!」と言っていました。本心でした。変われば変わるものです。相手の本音、弱みを聴いて、自分が変わったのです。ちょっとしたことが大きな改善につながることもあるのです。
「ものごとを肯定的に受け止め、心を開いて接する」努力を続け、周囲と好意的な人間関係を築いていきましょう。「話の効果をあげる好意的な人間関係を築く8つの原則」をお話ししました。このほかにも、名前を覚える。「君」「あなた」「おたく」ではなく「姓名」で呼ぶ。にこやかな表情で接するなど、努力項目はいくつもあります。原則を踏まえ、自ら工夫してください。
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