ブログ

理事 田村 聡 の「講義力をともに高めよう」10

第 10回 『会話を楽しくする意味と条件』

第一講座も残り2項目となり、いよいよ山場を迎えます。

ここでは、会話がなぜ大切なのかという意味づけを十分に行い、そのうえで具体的な方法論に入っていくことがポイントです。会話は日頃何気なくかわされているため、スピーチと比べて学ぶ意義を感じにくいかもしれません。あいさつや自己紹介で人間関係のきっかけをつかみ、それを深めていく大きな役割を果たすのが会話です。ことばをかわし、楽しい時間を過ごすことが会話の目的です。結合的機能、社交的機能といい、人と人を結びつけるはたらきが会話にはあります。第二講座の「ことばの機能」でも学びますが、まずは導入部分でこのような点について講義します。

(1)会話のための話材

「話材」とは話の材料のことです。まずは話材をたくさん集める努力をします。

 ① 話材を豊かに

会話はことばのキャッチボールです。相手からのことばを受けとめる、そしてことばを投げ返すには豊富な話材が必要です。集めようという意識を持って日常生活を見つめることです。具体的な方法論は「内容力を高める」のひとことに尽きます。「話力とは何か」の項目ですでに学んでいるため、こと細かく講義しなくても大丈夫です。日頃から話材をどのように集めているのか、講師の実践例を出せると効果的でしょう。

 ② 共通の話題

集めた話材の中から、相手に合わせて選んだものが「話題」です。ここで話材との相違点を明確にします。自分の話材と相手の話材との重なり合う部分が共通の話題です。集合の図などを使って講義するとわかりやすいでしょう。

共通の話題で会話することができると、ともに楽しい時間を過ごせます。このような経験は多くの人が持っていると思います。ポイントは「自分だけの興味にかたよらない」「相手にとって関心のある共通の話題から入る」「日常性のある話題を選ぶ」の3点です。どちらか一方が努力するのではなく、お互いが意識しなければなりません。はずんだ会話、はずまなかった会話の例を挙げ、なぜそのようになったのかを分析してふり返るのも講義を深める手がかりになります。

 ③ 気をつけたい話材

 悪口、不平、不満、ぐち、泣きごとなどは、聴き手に負担がかかる話材です。聴いていてうんざりする、疲れるということになります。時には誰かの噂話などで盛り上がることもあるでしょう。しかし、それは例外と考えておきましょう。そのような話材だけになると、だんだんと人は離れていきます。絶対禁止ではありませんが、やりすぎないことが大切です。

対立を招きやすい話材(宗教、政治など)、説教になりやすい話材は攻撃性を伴います。自分の考えを強く押し出すと、話の展開によっては危険なことがあります。「相手にとってストレスになる話材に注意する」、これがこの項目の結論です。

(2) 楽しい会話のための作法

マナー、ルールといってもよいでしょう。会話では、話し手と聴き手がそのつど入れ替わります。

それぞれの立場における作法を考えていきます。

 ① 気持ちのよい聴き方をする

 表現の原則で学んだ「感じよく」を応用しましょう。ことばと態度で反応する「積極的傾聴」を心がけて話を聴きます。「相手を見る」「あいづちをうつ」「要点をつかむ」などは具体的な方法です。

生返事をくり返す「聴きまね」は、気持ちが入っていないだけに話し手に伝わってしまいます。ここではこのようなポイントをおさえておけば十分です。

 ② 話を独占しない

 ③ 話の腰を折らない

 ④ 話やことばのあげ足をとらない

この3つはスムーズな会話を妨げる反応です。話す気をなくさせるだけに、避けるようにしなければなりません。会話における反則行為といってもよいでしょう。これを会話の中で行うとどうなるのかは容易に想像がつきますので、簡単にふれておくだけでもよいでしょう。

 ⑤ 話材をかみ合わせるよう努力する

 ⑥ 話がとぎれないように努力する

この2つはお互いの努力目標です。仲良くなると沈黙が不自然でないこともありますが、ここで心がけたいのは「気まずくならないように」ということです。

会話でもスピーチとおなじようにしっかりと準備することが必要です。長寿番組「徹子の部屋」はご存じの方も多いことでしょう。黒柳徹子さんは、ゲストが作家であれば著書を3冊は読むそうです。このように共通の話題をつくるための努力を実践するのがプロの仕事です。楽しく会話をすることが相手との関係をつくり、それが好意的人間関係の土台にもなるのです。

次回は第一講座の最後の項目「好意的人間関係をつくる(人に好かれる)」です。これまで学んできた項目を関連づけて、講座全体をまとめていきましょう。

TOP